2019年10月10日、旭化成はノーベル化学賞を受賞した同社名誉フェローの吉野彰氏の記者会見を開いた。会見の冒頭、吉野氏は「新聞各紙の朝刊の1面を見て、ああ(受賞は)本当だったんだなと実感した」と語り、報道陣をわかせた。

 今では世界に広く普及しているリチウムイオン2次電池だが、製品化の前に問題点が次々と出てきて研究開発が思うように進まず、「ストレスで髪の毛が抜け、枕にびっしりと付いていたこともあった」と会見に同席した妻の久美子氏が明かす一幕もあった。

 質疑応答では、研究開発はもちろん、環境負荷軽減や教育、夫妻のなれそめといったものまで幅広い質問が出て、吉野氏はそれらの1つひとつに丁寧に答えた。中でも印象的だったのは、京都人の持つ反骨精神の強さを力説したことだった。日経 xTECHの読者向けと思われる質疑応答を以下に紹介する。

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ノーベル賞受賞を受賞して会見する吉野彰氏
報道陣からの質問に笑顔で答える。(写真:尾関裕士)

研究開発にはゴールがあり、その先に宝がある

優れた研究をなし遂げた研究者の方は「セレンディピティー」があったとよくおっしゃいます。吉野さんの研究では何がセレンディピティーだったのでしょうか。

吉野氏:2000年に白川英樹先生が導電性樹脂であるポリアセチレンの発見でノーベル化学賞を受賞した。樹脂を重合する際に使う触媒の濃度を誤って1000倍に高めて使ってしまったことが、偶然にも偉大な発見につながった。これが最も有名なセレンディピティーの1つだと思う。

 私にとってのセレンディピティーは「時代の巡り合わせ」だ。1981年に私はポリアセチレンの研究を開始し、2次電池の負極としての可能性を見いだした。それとちょうど時期を同じくして、今回のノーベル化学賞の共同受賞者であるジョン・グッドイナフ先生が正極の材料を発見した。これら負極と正極のどちらが欠けてもリチウムイオン2次電池はできなかった。正極と負極の原型がたまたま同時期に登場したという時代の巡り合わせこそ、私にとってのセレンディピティーだ。

研究は苦しいけれど、その先に“ランナーズハイ”のような状態がやって来ると、かつてインタビューでおっしゃってました。

吉野氏:研究はマラソンと似ている点がある。マラソンの場合は42.195km先に必ずゴールがあり、ランナーはそれを目標に頑張って走っていける。その途中は苦しいが、そこを乗り越えたときに、ふっとランナーズハイの状態になることがある。私は高校生の時に一度だけ、大阪の淀川沿いの道を走っていてこのランナーズハイを経験した。

 研究開発もこれと基本的に同じだ。必ずどこかにゴールがある。そして、その先に宝物がある。このことが分かってさえいれば、途中でどれほど苦しいことがあっても何とか乗り越えることができる。研究者が自分で確信できる明確なゴールを設定できさえすれば、壁があっても乗り越えて、一歩ずつゴールに近づいたと認識できる。

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