ハードウエアからソフトウエア、そしてデータへと国際的な仕様の標準化の主役が移り変わるにつれ、そこから利益を得る手法も大きく変わった。特許料収入を目指すのではなく、標準化を通じて競合他社と協調し、新技術の開発コストを分担する。そう考えるグローバル企業が増えている。

 具体例を1つ紹介しよう。2019年9月、日経 xTECHの「沈むH.265、グーグル動画仕様AV1が主役へ アップル採用で加速か」と題した記事は注目を集めた。記事は「動画の放送や配信の中核技術である映像符号化方式(動画コーデック)。国際機関で標準化された“正統”な現行規格が、主役から引きずり降ろされる異例の展開になっている」との書き出しで始まる。

 記事のいう「正統」な現行規格とは、国際連合(国連)傘下のISO(国際標準化機構)/IEC(国際電気標準会議)や、国際電気通信連合(ITU)の通信分野の標準策定を担当するITU-T(電気通信標準化部門)で策定された規格を意味する。これら公的な標準化機関は「デジュール標準化機関」と呼ばれる。

 同記事は米グーグル(Google)や米アップル(Apple)、米アマゾン・ドット・コム(Amazon.com)などが参画する米国の非営利団体アライアンス・フォー・オープン・メディア(AOM)が公開した動画コーデックの「AOMedia Video 1(AV1)」が、正統な標準規格である「H.265/HEVC(High Efficiency Video Coding)」を脅かし始めた現状を伝えている。

 AV1は特許料を無料にするロイヤルティーフリーを掲げるのに対して、H.265/HEVCは特許料が高額になりがちであるため、コストを抑えられるAV1が動画配信事業者の支持を集めつつあるという。

日本企業は不在の技術標準

 ハードウエアは一度実装されれば改変やアップデートに多大な時間やコストが必要になる。そのため各国政府が参加する国際組織の枠組みで丁寧に時間をかけて仕様を煮詰めて、デジュール(法的)標準としてお墨付きを与えることには意義がある。

 またハードウエアメーカーのビジネスモデルにとっては、自社の特許技術などの知的財産を詰め込んだハードウエアの販売や特許のライセンス収入を軸にした技術面での差別化が経営戦略の中心になる。

 しかしソフトウエアは、ハードとは事情が異なる。ソフトで構築するクラウドベースの動画配信サービスといったビジネスモデルにとって、動画コーデック技術そのものは差別化の要因にはなり得ない。最新技術に基づいた仕様を迅速に採用し、随時更新していく方が経営戦略として合理的だ。

 そのため動画配信サービスを手掛ける企業にとって、動画コーデック技術は競争領域ではなく協調領域として見なされる。競合企業とも協力して必要な開発リソースを分担する方が合理的だ。動画コーデック技術の実装やフィードバックを基に常に改良を続けて、誰でも使えるオープンな標準仕様を確立するわけだ。

 「正統」な標準であるはずのH.265には、多数の日本企業が関与している。しかし一方、AV1の策定・普及団体であるAOMのメンバーリストに日本企業の名前は見当たらない。

 AOMはオープンという名称が団体名に含まれる通り、オープンな動画コーデック技術を開発・供給するために活動する団体である。開発ベンダーはAOMに参画しても、開発コストを分担するだけだ。特許のライセンス収入などの金銭的リターンは見込めないからだ。

 AOMに参画するメリットはコスト削減である。参画している企業は開発仕様によってコストを低減できるコンテンツ配信事業者や、サービスのインターフェースとなるウェブブラウザーベンダーのほか、クラウド事業者やクラウド事業者が構築するサーバー向けにチップを設計するベンダーである。

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