スマートフォンの普及は産業構造を一変させた。あまり知られていないが、スマホのイノベーションを強力に普及させた原動力は国際的な標準仕様である。標準仕様が通信キャリアと端末ベンダーの関係や、コンテンツプロバイダーなどのビジネスモデルを変革してきたのだ。

 例えばスマホのキラーコンテンツである地図アプリは経路案内や位置情報データを活用した飲食店のガイドサービスなどを提供し、多くのユーザにとって手放せないものになった。実のところ、こうしたイノベーションはiPhoneといった個別商品の登場や携帯電話の通信回線の速度向上といった技術革新だけが要因となって広まったわけではない。

 地図アプリは位置情報を扱うAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)やデータフォーマットの仕様が国際標準となり、その結果として実現した。つまり技術仕様の標準化がイノベーションを普及させたわけだ。

W3Cのウェブ標準にAPIが入って変わったアプリ競争環境

 国際的な標準化がイノベーションを普及させる原動力になって産業構造や社会を変革してきた例はいくつもある。米グーグルがPCのオフィスソフト市場で圧倒的なシェアを持つ米マイクロソフトの「Microsoft Office」に対抗した意外な戦略を例に、歴史を振り返って説明しよう。

図●グーグルが仕掛けたアーキテクチャーの移行
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 マイクロソフトのソフトウエア製品であるMicrosoft Officeはローカルデバイスにインストールされて動作する。このような形態で動作するソフトウエアは「ネーティブアプリケーション」と呼ばれる。

 グーグルは2004年以降、Gmailを皮切りにMicrosoft Officeに競合する”サービス”を含む「G Suite(ジースイート)」を普及させた。G Suiteは法人向けパッケージ商品で、個人向けにはストレージサービスGoogle Driveの付属機能としてSpreadsheetなど、マイクロソフトのOfficeと同等の機能を提供している。

 G Suiteのようにウェブブラウザー経由でデータの入出力を行ってクラウド上で処理を行うサービスは「ウェブアプリケーション」と呼ばれる。G Suiteはローカルデバイスにインストールするソフトウエア製品ではなく、クラウドサービスのSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)として米マイクロソフトのMicrosoft Office製品の機能を提供する。

 G Suiteの“Suite”とはオフィススイートを意味し、メーラーのOutlookに対するGmail、表計算のExcelに対するSheets、ワードプロセッサーのWordに対するDocsといったように製品やサービス構成もほぼ同一だ。

 今や先進的な企業はクラウドベースのウェブアプリケーションサービスを活用してワークスタイルの変革を進めている。この変化はどのようにして生じたのだろうか。

 グーグルがマイクロソフトの牙城であるMicrosoft Officeに対抗してウェブアプリケーションの普及を実現するために活用したのは、ウェブ技術の標準化である。元来ウェブはHTML(ハイパーテキスト・マークアップ言語)という文書ファイルを共有するために開発されたインフラである。ウェブブラウザーは文書という静的なコンテンツを文字通り「閲覧」するためのソフトウエアであった。

 HTMLに様々なAPIが組み込まれたものがHTML5である。この新しいWeb標準が登場することにより、ブラウザーはアプリケーションを操作するためのインターフェースとしての機能を有することとなった。

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