国際標準化を舞台にした競争は、今後あらゆる産業で起きる。AI(人工知能)に欠かせないデータの仕様を巡る標準化がその1つ。日本企業はどう戦うべきか。野心的な取り組みが始まっている。

 「データを中心にした標準仕様の策定は産業構造も規定することになる」。立教大学大学院の深見准教授はそう語る。今後あらゆる産業において製品やサービスの開発に人工知能(AI)が欠かせなくなるが、AIを開発する上でデータの仕様が大きな意味を持つようになるからだ。

 現在のAIの主流である機械学習は、コンピューターがビッグデータを学習することで、その中から意味のあるルールを見つけ出す。機械学習によるAIの開発においては、AIの機能はデータの内容や質に依存する。データに無い内容をコンピューターが学習することはできない。つまりAIを活用した製品やサービスの設計とは、データ仕様の設計に他ならない。

 同時にAI開発に欠かせないビッグデータの収集を単一企業が進めるのは難しい。同業他社や行政などとも連携してデータを収集することで、ビッグデータの種類や量、質を確保できるようになる。当然ながらデータ収集で連携するためには、データ仕様に関する標準化が不可欠だ。

標準化に参加しないと植民地に

 IoT(インターネット・オブ・シングス)やFinTech、MaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)、サプライチェーン管理(SCM)などの領域でも、企業間で流通するデータの仕様がアプリケーションの設計を左右する。つまり企業がデジタル変革を目指すのであれば、AIや各種アプリケーションに関連するデータ仕様の標準化に関与することが欠かせなくなる。

 多くのITサービスは利用者が増えれば増えるほど製品やサービスの価値が高まる「ネットワーク効果」が働く。標準化の策定に関わっていた企業は競争上有利な立場を作れる。

 逆に標準化に関わらなかったらどうなるのか。データに関する仕様はソフトの仕様と同じように「実装主義」で開発される。標準仕様が決まった頃には、標準化団体に加わっていた企業は既に仕様ドラフトに基づいて製品やサービスを市場に投入している。実装のノウハウは標準仕様には書かれていないので、仕様が固まった後に先行者に追いつこうとしても周回遅れで勝負にならない。

 OpenIDファウンデーションの崎村理事長は「データ経済においては、決められた標準に従うだけの企業は植民地のような存在になってしまう」と表現する。他社にとって都合のよいデータを作って納め、搾取されるだけの存在になってしまうという意味だ。

 しかし国際標準化の団体に関わる関係者は「国際標準化に戦略的に人材や資金を投じる日本企業が少ない」と口をそろえる。海外企業が積極的に国際標準の仕様策定を仕掛けているのに、日本からの参加者は年々減っているという。

 最たる例がIEEEで最も参加者が多い標準化コミュニティーである無線LAN通信規格の「IEEE 802.11」だ。参加メンバーが最も多く所属している企業は中国のファーウェイで米インテルなどが続く。

図 IEEE802.11ワーキンググループの所属組織別の人数(上位11組織)
有力企業は国際標準化組織に大量の人材を投入(注:2019年8月時点、出所:IEEE)
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