デファクトスタンダードがもてはやされたのは過去の話だ。今日のデータ時代においては、デジュール標準が再び中心に位置する。しかし標準化のプロセスや様々なルールは、ハード時代に比べて一変した。

 かつてIT業界の主役がハードウエアからソフトウエアに移る中で、国際標準化機構(ISO)や国際電気通信連合(ITU)といった公的な団体によって作られるデジュール標準ではなく、市場で勝利した事実上の標準(デファクトスタンダード)が重視される時代があった。マイクロソフトの「Windows」が強かった1990年代後半から2000年代前半のことだ。

 しかしそれは過去の話だ。IT分野でビジネスの成否を左右するのがデータやデータのやりとりに関連する仕様に移り変わり、再びデジュール標準が標準化の中心的な役割を担っている。しかも標準化に至るプロセスや標準仕様の扱いに関するルールはハード時代とは一変した。ポイントは3つある。実装主義、企業主導の標準化団体、ロイヤルティーフリーだ。

実装主義が主流に

 実装主義とはソフトやデータに関する仕様の標準化に際して、仕様のドラフトが固まる前にツールの実装を始め、修正を繰り返すことで仕様そのものを改善していく手法を言う。ドラフトを基にしたソフトの実装事例が2社以上から出てきて、それらが相互に運用可能な状態にならなければ投票にかけられない。そのようなルールを定める標準化団体も増えている。

 ハードを対象にした標準化の場合、仕様のドラフトを基に製品を開発してしまうと、その後に改良するのはコストが高くついた。そのため「企業は標準仕様が確定するのを待ってから製品を開発・量産するのが合理的だった」(立教大学の深見特任准教授)。ソフトはハードに比べて修正が容易だ。

図 国際標準を策定する概念や手続きの変化
国際標準化はハードウエア中心からデータ中心に(出所:深見嘉明・立教大学特任准教授と真野浩エブリセンスジャパンCEOの資料を基に日経コンピュータ作成)
[画像のクリックで拡大表示]

 実装主義で知られる標準化団体の筆頭格はW3Cだ。W3CでWeb技術を使ったデジタルサイネージの標準化に携わった羽田野太巳・ニューフォリア取締役最高技術責任者(CTO)は「W3Cの標準化プロセスはアジャイル開発と同じだ」と指摘する。

 OpenIDファウンデーションも「参加企業は実装可能な草案(インプレメンタブルドラフト)を作って実装した結果をフィードバックし、何度もドラフトを作り直して標準仕様にする」(崎村氏)。実装主義のもとでは標準化と実装が並行して進むので、仕様が決まる前の段階から製品やサービスが市場に登場している。

 ところが日本企業の多くはハードの時代の標準化イメージを引きずったままだ。日本企業は標準化団体で仕様が決まってから、製造工程やサプライチェーンを効率化して市場競争を勝ち抜いてきた。しかしデータの時代は、仕様が固まってからそれに準拠した製品やサービスを投入したところで、他社の後じんを拝するだけだ。こうしてハード中心の日本の家電メーカーなどは「不利な立場に置かれやすい」(羽田野CTO)という状況になった。

この先は有料会員の登録が必要です。今なら有料会員(月額プラン)が12月末まで無料!

日経 xTECHには有料記事(有料会員向けまたは定期購読者向け)、無料記事(登録会員向け)、フリー記事(誰でも閲覧可能)があります。有料記事でも、登録会員向け配信期間は登録会員への登録が必要な場合があります。有料会員と登録会員に関するFAQはこちら