改善のプロである「黒帯」保持者が米国に35万人以上もいるという現実にショックを受けた筆者は、何とか気を取り直してさらに調べてみた。

 すると、米グーグル(Google)、米ナイキ(Nike)、米スターバックス(Starbucks)、米ボーイング(Boeing)、米ハーレーダビッドソン(Harley-Davidson)、米ジョンソン・エンド・ジョンソン(Johnson&Johnson)、米コカ・コーラ(Coca-Cola)など、世界で成長を続けている企業は「リーン(Lean)」を採用していることが分かった。しかも、製造現場だけではなく、ホワイトカラーや経営にも導入しているのである。会社組織全体が、経営が、まさにトヨタ自動車の「DNA」に変貌しつつあることが分かってきたのだ。

 この驚きの数字の裏付けを取るために、筆者はオランダでリーンの研修やコンサルを行っているLGC(Lean Consultancy Group)のTim Wolput氏に、同社の話を聞いてみた。すると、同社だけで年間222日ものリーン研修を行っているという。リーン研修は黒帯(ブラックベルト)と緑帯(グリーンベルト)、黄帯(イエローベルト)に分かれている。このうち、黒帯コースは、160時間のトレーニングプログラムだ。現場で改善を進め、会社の経営に貢献するための能力を鍛える。世間ではあまり知られていないが、これはトヨタの改善部隊のメンバーが身に付けているような能力だ。現時点ではまだそこまでの水準には達していないものの、驚きのプログラムである。

 既にボーイングでは、改善を仕事とするメンバーが60人ほどいると聞く。彼らはいわゆる社内コンサルタントのプロだ。ボーイングは特に早い段階でリーンを取り入れており、トヨタ流マネジメント(Toyota way Management System;TMS)を導入した2010年ごろから株価は飛躍的に伸びている。

現場や経営にリーンを導入しているボーイング
既に改善のプロが60人もいるという。(写真:日経 xTECH)
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 ちなみに、黒帯レベル人材の市場年収はざっと1000万円と言われている。改善のプロが社内に一定数おり、経営トップとタッグを組んで組織改革に取り組んでいれば、現状維持を続けたいという企業でも、いやが応でも変わらざるを得ないだろう。

 変わるのは現場ばかりではない。経営者も変わる。なぜなら、経営もリーンの考え方に基づいた経営方式に変えないと、リーンを実践している現場のスピードを無駄にしてしまうからだ。そのため、リーンを導入する企業は、経営スタイルをそれまでのMBA(経営学修士)的な知識ベースの経営から、実践型のリーン経営に変えているようだ。米マサチューセッツ工科大学(MIT)のMBAは日本と比べてはるかに進化しており、実はMITのMBA の中にはTMSに相当する実践的なコースもある。

 スウェーデンにおけるリーンを研究している研究者に立命館大学大学院大学の小菅准教授がいる。同氏はトヨタ生産方式(Toyota Production Sysytem;TPS)などに焦点を当てる東京大学ものづくり経営研究センターでの研究経験を経た後、スウェーデンにおけるリーンの研究に着手した人だ。

 小菅氏によれば、スウェーデンでは国策に近いレベルでリーンが浸透しているという。その要因として、リーンのコンサルティング会社が増殖してコミュニティーを形成し、政府に働き掛けていることが考えられるという研究結果を発表している。しかも、あらゆる業種に広がっていることと、ホワイトカラーや経営への浸透の速さを述べている。この傾向はスウェーデンだけではなく、広く欧州に広がる傾向にあり、日本にとっては非常に恐ろしい状況である。

TPSの考えで稼働するトヨタ自動車東日本の生産ライン
トヨタグループではTPSが生産現場はもちろん、ホワイトカラーや経営にまで浸透している。海外の成長企業も現場から経営までリーンを取り入れている。だが、日本企業の多くはTPSの導入を生産現場にとどめている。(写真:日経 xTECH)
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