「Japan Quality(日本品質)」は終焉(しゅうえん)を迎えつつあるのではないか?──。これが今、筆者が抱いている正直な感想だ。

 これまで世界で高く評価されてきた日本企業の品質が変調を来している。一方で、世界の名だたる企業が、組織レベルでの意思決定のスピードを飛躍的に速めている。トヨタ自動車が生んだトヨタ生産方式(Toyota Production Sysytem;TPS)に基づく「リーン(Lean)」が経営に浸透しているからだ。

 ところが、海外企業がどうしてこれほど強くなったのか、海外の経営の変化に日本の経営者はほとんど気づいていない。

 品質には2種類がある。「当たり前品質」と「魅力品質」だ。この数年間で欧米企業は両品質の向上に関して日本を超える勢いをみせている。欧米企業だけではない。発展途上国までもが日本企業に「追いつけ、追い越せ」で両品質を急速に伸ばしている。

 事実、米グーグル(Google)や米ナイキ(Nike)、米スターバックス(Starbucks)など名だたる海外企業が、日本企業をはるかに超える魅力品質の製品やサービスを提供している。

リーン経営を実践しているナイキ
写真は「ナイキ アダプト ハラチ」。「アップルウォッチ(Apple Watch)」や音声認識システム「Siri」を使い、電動シューレース調整技術で着用感を制御できる。(出所:ナイキ)
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 これらの企業が強くなった理由に、ほとんどの日本人が気付いていない。そこで、この数年間に筆者が海外でコンサルティングやトヨタ流マネジメント(Toyota way Management System;TMS)の研修を行ってきた経験を基に、2019年3月に米国ヒューストンで開催されたリーンの国際的なイベント「Lean Summit 2019」に参加して得た、世界各国から集まったリーンに取り組んでいる会社の最新情報を交えながら、海外企業がリーン経営にいかに力を入れているかを紹介したい。

海外はTPSをリーンと呼ぶ

 2018年3月、海外産業人材育成協会(AOTS)の企画でTMSに関する講演を行うため、筆者はフィリピンに向かった。通訳で同行してくれたのは、オランダでリーンの研修やコンサルを行っている企業であるLGC(Lean Consultancy Group)のTim Wolput氏だった。

 彼と話していて、ふとリーンのことが気になり、インターネットを検索して驚愕(きょうがく)の事実を知ることとなった。日本の競争力が海外に比べて相対的に落ちてきた「根本的な原因」を見つけてしまったためである。日本では政府が生産性の向上やら働き方改革とやらを叫んでいるというのに……。海外でリーンを導入している企業が業績を伸ばしている事実と、今後日本企業が強くなっていくためには、何が必要かを述べていきたいと思う。

 さて、読者のどれくらいが「リーン」という言葉を知っているだろうか。特に経営者や技術系管理者の方にうかがいたい。

 リーンとは、一言で言えばトヨタ生産方式(TPS)のことだ。1980年代に米マサチューセッツ工科大学(MIT)が日本の自動車産業における生産方式(主にトヨタ生産方式)を研究し、その成果を再体系化・一般化したものである。海外ではTPSのことをリーン(Lean)と呼んでいる。Leanとは「ぜい肉のない」という意味で、ムダのない企業体質という意味が込められている。

 実は、このリーンが20年たって完璧に進化し、製造現場を離れて、医療や金融、自治体、サービス、ITなどのあるゆる業種のホワイトカラーと経営層に浸透していたのである。日本ではTPSがまだ製造現場のものであるにもかかわらず、である。

 「リーンスタートアップ(The Lean Startup)」という書籍が2011年(日本語版は2012年に日経BPより発行)に流行(はや)ったため、リーンスタートアップという単語としてリーンという言葉が頭の片隅にある人はいると思う。だが、リーンとは何かを説明できる人は少ないのではないだろうか。そこで、筆者とリーンとの関わり合いを述べながら、リーンとは何かを説明したいと思う。

 リーンについては、弊社(豊田マネージメント研究所)社長がロシアやトルコなどに現地のリーン協会からの依頼で講演に行くことが多いため、話をよく聞いていた。欧米でリーンの研修をやっているコンサルティング会社が、弊社の兄弟会社である豊田エンジニアリングにリーンをより深く学びたいという理由でTPSの研修に来ていることも知っていた(最近は、TPSよりもTMSを学びたいと言うリーン資格保持者が増えつつある)。

 2010年には、英国で開催された「Lean Summit 2010」において、米ボーイング(The Boeing Company)のホワイトカラー部門を対象にした改善塾「LfL(Lean for Leader)」の主催者であるシャローン氏が講演。TMSの話をした。筆者は当時、同社を指導していた。

 2013年には、フランスのパリで「Lean IT Summit 2013」が開催され、米国の某飛行機メーカーで一緒にコンサルタントの仕事をしていたT氏もプレゼンターとして参加していた。このイベントには欧米の有名企業が数多く参加しており、業種もITから金融、医療までさまざまであった。

 ただ、この時点でもまだ、筆者は「リーンが頑張っているなぁ」という程度の認識しか持っていなかった。職業柄、リーンは自分の身の回りでかなり直接的に関わっていたように思う。ところが、リーンは筆者の中で「TPSと同じように現場で広がっているものだ」という感覚と、「TPSとは別物であり、レベルもそんなに高くはない」という感覚だった。

 筆者が富士通にいた2006年に、トヨタ自動車e-TOYOTA部に出向(基幹職)していた時には、英国の富士通子会社からトヨタの人間から直接話を聞きたい」というオファーを受けた。そこで、トヨタOBで現在ESD21(持続可能なモノづくり・人づくり支援協会)の会長である黒岩惠氏と一緒に、ロンドン市内とロンドン郊外の工場でリーンを実践している現場を訪問し、ホワイトカラーの職場で「モノと情報の流れ図」であるVSM(Value Stream Map)や品質機能展開(QFD;Quality Functional Diployment)などを行っている現場を見て回った。しかし、その印象はそこそこやっているが、職場が活性化されている印象がなく「まだまだだなぁ」というものだった。

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