虹色は喜び・白色は集中、犬の気持ちを5種類の色で表す「ペットテック」の実力

2019/10/04 05:00
安藤 正芳=日経 xTECH/日経SYSTEMS

 「ペットの気持ちが分かればいいのに」――。犬や猫を飼育している人ならば一度はこのようなことを考えるだろう。犬や猫は人間の言葉を話せない。そのためペットの突然の変化に飼い主が戸惑うことも多い。体調を崩していても飼い主が気づいてあげられないこともある。

 何とかペットの気持ちを把握してコミュニケーションを取ることはできないのか。このような思いから開発されたIoT機器がある。それがラングレスが開発・販売する「INUPATHY(イヌパシー)」だ。

 ペットの体に装着するハーネス型のINUPATHYには、ベルト部分に心音マイクセンサーがあり、感情を表示するLEDライトが背中側に搭載されている。センサーによって心拍を読み取り、検出した信号をLEDライトの下にあるノイズキャンセラーによって整形。そして信号を解析して感情を色で表現するといった仕組みだ。

INUPATHYを装着した様子
(出所:ラングレス)
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 色は全部で5種類。緑色がリラックスしている、白色が集中している、オレンジ色が興奮している、紫色がストレスを感じている、虹色が喜んでいる、といった具合である。得られた感情や心拍のデータは専用のスマホアプリで確認できる。

 ラングレスの山入端佳那社長兼CEO(最高経営責任者)は「心拍から感情を読み取るという発想は動物行動学を専攻していた経験がある山口譲二代表取締役兼CTO(最高技術責任者)が考えた」と話す。山口CTOは10年以上前に犬の心拍と感情の因果関係の研究に注目した。人間が緊張すると心拍が変動するように心拍と感情に関係性がある。同じように犬の心拍を測定すれば、感情を把握できるのではないかと考えたわけだ。

 だが犬の心拍を測定するのは難しい。人間なら心臓が発する微弱な電気を捉えて心拍を測定する心電図を取れるが、犬が静止してあおむけになることはほとんどない。しかも「毛が邪魔をして正しく心拍を測定できない」(山入端CEO)。

 そこでラングレスが採用したのは音で心拍を測定する方法だった。心音マイクセンサーなら長毛の犬でも心拍を測定できる。ハーネス型にすれば、どんな犬種にも取り付けられるという利点もある。

 ただし開発は困難の連続だったという。「心音マイクセンサーはマイクを収めるケース樹脂を変えただけでも正しいデータが取得できないことがあった。工場の生産工程や素材コストに制約があるため調整が必要だった」(山入端社長)という。

たった4拍で感情を把握

 では、計測した心拍をどうやって感情と結び付けているのだろうか。実は犬ではなく人間の心拍と感情の因果関係を調べる研究は以前から盛んに行われている。例えば心拍間隔の変動とストレスの関係などの研究だ。ラングレスはこれらの研究を犬の感情に応用できないかと考え、新たに「RT-HRV」というアルゴリズムを開発した。

 「RT」はリアルタイムを表し、「HRV」は心拍変動解析を意味する。これまでのアルゴリズムは心拍を測定しても解析が終わるまで「30秒~1分程度かかることが多かった」(山入端社長)という。1分前の犬の感情が分かってもリアルタイムなコミュニケーションには利用できない。

 この課題を解決するのがRT-HRVである。測定したデータを多次元化して図形として表し、それを基に感情を推定する。例えば、心拍の間隔から感情を推定する流れは以下のようなイメージだ。

 まず、マイクセンサーのデータから心拍の間隔を計測し、過去4~5拍分のデータから図形を作る。この図形を同社がこれまで蓄積した観察データから得られた感情ごとの図形と照らし合わせ、形状の類似度を判別してそのときのペットの感情を推定する。形状の違いが心拍間隔の変動の特徴を表すことになるというわけだ。このアルゴリズムを使えば、たった4回の心拍から感情を推定できるという。

心拍から犬の感情を読み取るアルゴリズムのイメージ
(ラングレスの資料を基に編集部で作成)
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 山入端社長は今後、INUPATHYで集められたビッグデータをAI(人工知能)で解析し、ペットの心拍と体調の関係を明らかにしたいと意気込む。もし体調不良の犬のデータを教師データとして心拍から病気や誤飲の兆候を推定できれば、「飼い主が病気などを判断する手助けになる」(同)からだ。

 既にラングレスは取り組みを始めようとしている。まず「INUPATHYで取得したデータが研究に耐え得るものかを専門家と議論していく予定だ」(山入端社長)という。そして2021年春までにはスマホアプリに飼い犬の体調悪化や考えられる原因などを表示する機能を追加したい考えだ。

ラングレスの山入端佳那社長兼CEO(最高経営責任者)
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■変更履歴
当初、心電図の説明を「微量な電気を流して」と記載していましたが、正しくは「心臓が発する微弱な電気を捉えて」です。また、「心拍から犬の感情を読み取るアルゴリズムのイメージ」の図で心拍の数に誤りがありました。おわびして訂正します。本文と図は修正済みです。[2019/10/10 09:00]

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