病気の疑いはどの子?猫の不調を尿とAIで見抜くペットテックの威力

2019/10/03 05:00
安藤 正芳=日経 xTECH/日経SYSTEMS

 ペットと健康な暮らしを送るには、何よりもペットの病気にいち早く気づくことが大切だ。猫や犬にはなりやすい病気がある。それらの病気の兆候に気づき早期に治療を進められれば、ペットの病気の悪化を食い止めることができるかもしれない。

 ペット保険を販売する日本アニマル倶楽部が2017年10月に発表した調査結果では、7~10歳と11~20歳の猫の死因1位は「腎・泌尿器」である。徐々に腎臓の機能が低下してしまう慢性腎臓病は、はっきりと症状が表れにくいのが特徴。飼い主が気づいたときには病気が進行していることもある。

 そこで日ごろの尿のチェックが大切となる。腎臓の機能が低下した猫は水をたくさん飲むようになり尿の量が増える。そのため尿の色が薄くなり、臭いもあまりしなくなってくるという。飼い主がこのような兆候にいち早く気づければ、獣医の診断をきちんと受けて薬を処方してもらう、食べ物を変更する、といった対処ができるようになるわけだ。

 ただし忙しい毎日を送る飼い主がつきっきりで猫の尿を観察するのは難しい。このような問題をペットテックで解決しようとしているのがハチたまの堀宏治社長だ。同社はAI(人工知能)による尿の状態判定や顔認識機能を搭載した猫トイレ「toletta(トレッタ)」を開発した。

tolettaの外観
クリックすると拡大した画像が開きます

 tolettaは2層式の猫トイレだ。上の層に猫砂(砂状の猫用トイレ用品)を敷き詰め、猫の尿は砂を通り抜け下層に敷いたシートに吸収される。tolettaには体重計が備わっており、猫がトイレに入った前後の重量変化によって体重と尿の量を量る。ほかにも猫のトイレ滞在時間、尿の回数などを計測できる。

tolettaは2層式を採用している
(出所:ハチたま)
クリックすると拡大した画像が開きます

 猫がトイレで尿をすると、測定したデータがクラウドに送られる。体重の変化量やトイレの滞在時間、尿の量や回数などを統計データを基にAIで分析。結果が飼い主のスマートフォンに送られる。体調不良の兆候があればアラートを表示する。これで飼い主が猫の体調の変化にいち早く気づくことができるという。

スマホアプリの画面例
(出所:ハチたま)
クリックすると拡大した画像が開きます

 2層構造を採用したのは「尿の色を判断しやすくするため」(堀社長)。尿を砂が吸収するタイプの猫トイレもあるが、それでは尿の色が分からず腎臓機能が低下する兆候を確認できないからだ。

TensorFlowとKerasで猫の顔を判別

 猫の個体識別にもAIを利用している。tolettaにはカメラが付いていて、猫がトイレに入ると録画が始まる。撮影された画像をクラウドに送って深層学習を用いたAIで分析し、猫の顔を判別する。顔の判別には機械学習フレームワーク「TensorFlow」と、同フレームワーク上で稼働するニューラルネットワーク用の機械学習ライブラリー「Keras」を用いている。

 堀社長は「猫を飼う人は多頭で飼うことが多いため、個体を識別したかった」と話す。ペットフード協会が発表した「全国犬猫飼育実態調査」によれば、犬の平均飼育頭数が1.24頭に対して、猫は1.74頭と多い。つまり、猫を飼育している世帯には複数頭の猫がいる可能性が高く、猫の健康を守るには個体を識別することが欠かせないわけだ。

 個体を識別できる猫トイレにはほかに、シャープが開発・販売する「ペットケアモニター」がある。こちらは猫の首輪などにボタン電池で動く個体識別バッジを付け、トイレとバッジが通信して、トイレに入った猫を判断している。IoT(インターネット・オブ・シングズ)を駆使したペットテック製品の1つと言える。

 tolettaを使って実際に猫の腎臓機能の低下に気づけた例もある。ネコリパブリックの嬉野千鶴お茶の水店店長は「tolettaのデータのおかげで腎臓の機能が低下している猫を早期に発見できた」と話す。

ネコリパブリックの嬉野千鶴お茶の水店店長
(ネコリパブリック中野店で撮影)
クリックすると拡大した画像が開きます

 ネコリパブリックは地域の保護猫団体と協力して保護された猫の里親を探す取り組みをしている。里親希望者と保護猫が触れ合える猫カフェのような空間を提供し、実際に猫とコミュニケーションを取ってもらう。猫カフェで触れ合って家族に迎えたい猫がいれば、里親になるための審査を受けられる。審査に通れば、後日譲渡してもらえる仕組みだ。

 「tolettaのデータを見ると、尿の回数がいきなり増えた猫がいた。尿を調べてみると普段より薄い。実際に獣医さんに診てもらったところ腎臓の数値が正常値のぎりぎりまで悪化していた」(嬉野店長)という。その猫は人前にいるのが苦手で隠れてしまいがちなため「tolettaがなければ気づくことは難しかったのではないか」と話す。対象の猫には早急に薬を投与し、食事を変えるといった対処をした。「現在も腎臓の機能は悪化せずに元気でいる」(同)という。

 嬉野店長は「最近では猫の腎臓病に有効な治療薬や食事が登場し、病気の進行を遅らせられる」と説明する。慢性腎臓病は症状が良くなることはない。しかし早く気づいてあげられれば、悪化するスピードを遅らせることができるのだ。

得られるビッグデータを活用

 ハチたまの堀社長はtolettaのユーザーから得られるデータを活用して「ペットデータのプラットフォームを作りたい」と意気込む。tolettaからは月に約30万件のデータがアップロードされている。これらの膨大なデータを分析し、尿の頻度や量と病気の関連性が分かれば治療時に重要な情報となるからだ。

 また日本だけではなく海外に向け積極的にtolettaを販売していくという。「米国や中国は日本よりも飼育されている頭数が多い。しかも米国は動物病院が飼い主の自宅から距離的に遠いことが多く、体調不良の際にすぐに対処するのは難しい」(堀社長)という。tolettaのように病気の兆候が分かれば前もって獣医に診てもらうことが可能になる。

 堀社長は「トイレのイノベーションを日本から起こしたい」と話す。思えば温水洗浄便座が日本発だった。次は猫用トイレで日本発の機能が受け入れられる――。こんな可能性は十分にあるだろう。

この先は日経 xTECH有料会員の登録が必要です。