ANAグループは、ANAブランドの国内線・国際線フルキャリアサービス、LCCのPeach Aviationとバニラ・エアによる航空運送事業のほか、セールス&マーケティング、貨物・物流、不動産・ビルメンテナンスなど多様な事業を展開している。昨年度の売上高は2兆583億円で営業利益は1650億円だ。

 だが、ここに至るまでの道のりは決して平坦ではなかった。1986年に悲願の国際線旅客事業に参入したが、国際線単体では17年間赤字続きだった。社内には撤退すべきとの意見も根強かったが、歴代社長は誰一人として首を縦に振らなかった。今では訪日外国人も増え、国際線が成長ドライバーになっている。長期的な視点で事業を継続したのは歴代社長の英断である。

次の成長に欠かせない人財とデジタルの力

 ANAには挑戦する風土がある。このDNAを引き継ぎ、グループをさらに成長させることが私の役目だと思っている。

 そのために欠かせないのがデジタルトランスフォーメーション(DX)だ。2018年から始まった中期経営計画の柱の1つにDXを据え、航空事業の拡大と新規事業の創出を目指す「ANA版Society5.0」を推進している。

 取り組みを支えるのは、「人財」である。多様な人財が強みを生かして想像力を発揮し、デジタルの力を駆使してそれを創造していけるよう、データサイエンティストやデータアナリストの採用も進めている。これらを通じて、飛行機を、より身近で安全・便利な乗り物「ヒコーキ」に変えていきたい。

パートナーとも連携しより安全で快適なサービスを目指す

 変革に向けたチャレンジの中から、代表的な6つの取り組みを紹介したい。

 1つ目は「シンプルでスマートな空港」を目指す活動だ。ストレスのない簡単・便利な旅を提供し、同時に空港業務の人手不足を補うため、貨物搬送トラクターや空港内リムジンバスを自動運転化する実証実験をソフトバンクと共同で進めている。成田空港や羽田空港の出入国審査で用いられている顔認証システムを保安検査場や搭乗ゲートにも拡大して、手続きを簡素化する共同研究にも取り組んでいる。

 2つ目は「乗ると元気になるヒコーキ」の実現である。例えば、睡眠関連のコンサルティングを手掛けるニューロスペースと提携し「時差ボケ解消アプリ」の実証実験を2018年10月から開始した。時差ボケ解消にはどういった睡眠サイクルや食べ物がいいかといった、生活上のアドバイスを提供するもので、2020年4月からのサービス化を目指している。フライト中に機内で受けられる「空の人間ドック」のような、新しいヘルスケアサービスの提供も考えている。

 3つ目が「人財育成の強化」だ。羽田空港周辺に点在していた訓練、教育、研修施設を集約し、2019年4月に総合トレーニングセンター「ANA Blue Base」をオープンした。乗員訓練用シミュレーターやVRゴーグルを活用したトレーニング施設など、先端技術を駆使した豊富な設備が整っている。ここを起点として、ハード、ソフトの両面から安全やサービス・品質向上の取り組みを強化していく。

 4つ目が「ドローン、空飛ぶクルマ、そして宇宙への挑戦」である。まずドローンによる航空機の整備点検作業での検証を開始。実用化されれば、真上からの機体確認が簡単になる。ツアー紹介の空撮動画撮影、離島への物資輸送手段としても期待している。ドローンに関しては、航空機で培ったノウハウを生かした、オペレーション分野でのビジネスにもつなげたい。

 未来の移動手段として注目される空飛ぶクルマについては、実現に向けた官民協議会に参画し、研究開発や実証実験もサポートしている。

 ANAは、いつか宇宙へはばたく夢を持っている。布石として、有人宇宙機の開発を進めるPDエアロスペース、宇宙ゴミ除去サービスの開発に取り組むアストロスケールなどの宇宙ベンチャーなどに出資している。

様々な交通機関と連携し移動全体をサービスに

 5つ目の取り組みは「ANA AVATAR VISION」。AVATAR(アバター)とはAR/VR技術と分身ロボットを用い、遠隔地のものを見る、聞く、触ることができる技術だ。自分の意識、技能、存在感を遠隔地に“瞬間移動”させることができる新たな移動手段として注目している。多数の研究機関や企業と共に、実用化を目指しており、将来は、移動が難しい重病の方の遠隔治療、教育の機会に恵まれない地域の遠隔授業、人が立ち入ることが難しい被災地の救助活動といった、社会的な課題解決に役立てたい。

 最後の6つ目は「MaaS戦略とそれを支えるデジタルプラットフォームの実現」である。MaaSとは「Mobility as a Service」の略で、マイカー以外の交通手段による移動を1つのサービスとして捉える考え方。ほとんどの場合、交通手段の利用目的は移動であり、乗り物に乗ることではない。家や会社を出てから目的地に着くまで、必要な交通手段を統合的に利用できれば利便性は高まる。

 そのためには、鉄道会社、バス会社、タクシー会社などとのシステム連携が欠かせない。ANAはMaaSの実現に向け、旅客系システム、運航系システム、顧客系システムなどを仮想化技術でつなぐデジタルプラットフォームの構築を進めている。幅広い交通機関と連携したシームレスかつユニバーサルな移動体験を提供し、不安なく楽しく移動できる社会の実現に貢献したい。

 チャレンジする中では失敗もある。しかし挑戦はANAのDNAだ。失敗を恐れず、ヒコーキが大空を駆け巡る未来づくりを推進していきたい。

本記事は2019年7月10日~12日に開催された「IT Japan 2019」のリポートです。

出典:日経コンピュータ 特別レポート版
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。