要件定義で関係者の合意を固められると後工程の手戻りを減らせるが、一筋縄ではいかないものだ。本特集では日経ITプロフェッショナルの過去記事を再編集し、ITコンサルタントが現場で培った実践ノウハウを紹介する。

 「メンバーの意見がまとまらずプロジェクトの中止が決まった。もう1度初めからやり直すので相談に乗ってほしい」──。数年前、ユーザー企業A社の情報システム部長からこんな連絡をもらった。

 この部長によると、当時A社は新しい生産管理システムの要件を決めるべく、関係部署のキーパーソンを集めて週次で会議を開いていた。会議にはプロジェクトマネジャーの情報システム部長と10人の検討メンバーが集まることになっていたが、毎回のように欠席者がいたという。

 発言するメンバーは常に3~4人だけ。残りは議論に参加する気もない。発言するメンバーにしても思い付いた問題点を挙げるだけで、ほかのメンバーの意見に対するコメントはほとんどなく余計なことは言わないという雰囲気だった。

 そんな状態ではメンバーの総意としての結論が出るわけもない。システム要件に関する合意形成に失敗し、このプロジェクトは結局3カ月でいったん中止に追い込まれた。

メンバーの参画意識を高める

 システム開発プロジェクトにおいて合意形成が最も重要かつ難しいのが、課題分析や業務設計、要件定義などユーザー部門が主体となる上流工程の会議だろう。ここでいう合意形成とは、プロジェクトのメンバー1人ひとりが議論の進め方や結論に納得しチーム全体で意思統一することを指す。

 これが不十分だと、連綿と続く後工程で不満が噴出して手戻りが発生したり、最悪の場合はプロジェクトが頓挫したりしかねない。

 ところが上流工程の会議では、部署や専門分野、役職、経験などが異なる多様なメンバーがユーザー部門から集まるため、議論が弾まなかったり部署間で利害が対立したりする。しかもユーザー部門にとってシステム開発プロジェクトは“本業”ではないので、ともするとメンバーのやる気が希薄になりやすい。

 こうした困難な状況に陥りがちな会議において、進行役を務めるファシリテーターがメンバーの合意形成を図るにはどうすればよいか――。それがこの特集のテーマである。筆者は数多くのプロジェクトにコンサルタントとして参加しファシリテーター役を務めてきた。その経験から言うと、合意形成を図るうえで最も重要なのは「メンバー1人ひとりの参画意識を高めること」である。参画意識とは「責任感」や「やる気」と言い換えてもよい。

 これが足りないと議論が形骸化して、合意形成に不可欠なプロセスである意見のぶつかり合いが生まれない。たとえ反対意見が出なくてもメンバーが納得しているとは限らない。真剣に考えていなかったり、あえて発言を控えていたりすることがあるからだ。

大した議論もないまま淡々と決まっていく会議の落とし穴
合意形成が取れないのは意見対立があって膠着状態になるときだけではない。むしろ深刻なのは、大した議論もないまま淡々と決まっていく会議だ。メンバーの参画意識の不足などにより、決定事項が形骸化したり場合によっては会議のやり直しが必要になったりする
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