「機械のリアルタイム制御に学習済み推論モデルを組み込んでいくのが、製造業における人工知能(AI)活用の次のマイルストーンになるだろう」。ベッコフオートメーション(本社横浜市)代表取締役社長の川野俊充氏はこう語る。

 深層学習の進展による2013年以降の第3次AIブームで、製造業でも先進企業が生産現場でAIを活用し始めている。現在、ツールや導入事例で多いのは、深層学習が得意とする画像認識を用いた品質検査や、設備の予知保全などだ。川野氏はそれらも重要なアプリケーションと前置きした上で、冒頭のように次のステップとして生産現場の機械・設備の制御における適用が進むと期待する。

 機械制御におけるAIの適用は、人でなくてはできないとされてきた操作を自動化できる可能性を開く。熟練オペレーターよりも深い判断や人よりも素早い判断、人ではできない制御パラメーターの動的な調整も可能になる。つまり、人と同等もしくはそれ以上の「賢い機械」を実現できる。それは、処理能力や精度の向上の他、製品品質向上、無人化・省人化といった恩恵をもたらす。

 実際、ドイツBeckhoff Automationは、同社のソフトウエアPLC向けに機械学習オプション機能の提供を予定している。機械学習・深層学習の推論モデルをPLCのプログラムとして取り込めるようになる(Part2 技術動向 ベッコフオートメーション参照)。

判断の質や速度で3つの適用領域

 ただし、近年急速に普及している機械学習・深層学習の推論モデルは、推論結果として“もっともらしい”という確率を伴っている点で確実性(精度)の保証に限界がある。確実な結果を得ようとすると、推論などに必要な処理時間やコンピューターの容量などとのトレードオフが現場で使う上での制約になる場合があり、用途には向き不向きがある。一口に「賢い機械」と言っても、どこにどんなアルゴリズムのAIを適用するかを十分吟味しなくてはならない。

 AIが判断する質と速さという視点から、本稿で取り上げる機械・設備制御へのAIの適用は大まかに、 [1]人にはできない複雑な判断・制御を高速(リアルタイム制御)にこなし質の高い結果を得る、 [2]ベテラン並みの判断を従来よりも高速に実行する、 [3]人の代わりに確実に判断・処理する、3つの領域に大別できる(図1*1

図1 機械・設備制御へのAI技術の適用
用途によって判断の質やスピード、必要な精度・確度が異なり、AIアルゴリズムを使い分ける必要がある。(日経ものづくりが作成)
[画像のクリックで拡大表示]

*1 AIで動的に制御パラメーターを調整するのではなく、オフラインで調整しておくという手法もある。例えば、NTTコミュニケーションズは、横河電機らと共同開発した化学プラント向けデジタルツインを用いて、深層学習によって最適な制御パラメーターを探索する手法を開発した。同様にディスクリートの生産ラインでも、設備の稼働データと品質データをひも付けした教師データを基に、PID制御のパラメーターを最適化するといった用途が考えられる。

 通常、人は機械にできない高度な判断ができても、機械・設備のようなスピード・回数では処理できない。逆に、機械は高速に処理をし続けられても、ベテラン技術者・技能者のような高度な判断はできなかった。従って、両者のトレードオフが自動化の限界になっていた。AIはその限界を超え、人には不可能なパラメーターの見極めを瞬時にこなしたり、人よりもはるかに高速に判断したりできる。

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