ハイブリッド車(HEV)用エンジンにおける熱効率の向上競争を主導してきたトヨタ自動車。2030年までに50%の達成とともに、超希薄燃焼を実現したHEVを広く普及させる構想を描く。加えて力を注ぐのが、大気よりきれいな排ガスにする「マイナスエミッション」の実現だ。エンジンを「二酸化炭素(CO2)ニュートラル」な存在に近づける燃料革新にも挑む。トヨタでパワートレーン開発を統括する岸宏尚氏に今後の方針を聞いた。

欧州を中心に、ライフサイクルでCO2排出量を評価する「LCA(Life Cycle Assessment)」の機運が高まっている。

 当社は(地球規模で考える)「ホームプラネット」が大切と言っており、自動車のライフサイクルでCO2排出量を下げていくことは、究極の課題だ。「トヨタ環境チャレンジ2050」で示した2050年にCO2排出量を(2010年比)90%削減する目標は、走行中(Tank-to-Wheel)を対象にしたもの。今後、Well-to-Wheel(1次エネルギーの採掘から走行まで)や、ライフサイクルへと対象範囲は広がるだろう。

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岸宏尚氏(トヨタ自動車パワートレーンカンパニーPresident)
きし・ひろひさ 1959年生まれ。1984年に名工大大学院修了後、同年トヨタ自動車入社。2008年エンジン制御システム開発部部長、2013年エンジン設計部部長、2016年常務役員、同年パワートレーンカンパニーExecutive Vice President、2018年に現職。ガソリン直噴システムの開発担当、タンドラ用V8エンジン(UR型)の開発責任者。(写真:森田直希)

 ライフサイクルで見ると、電動車の場合は電池などの部品群の製造工程や、エネルギー生成時のCO2排出量を無視できなくなる。技術開発の方向性として、部品単体に加えて、製造工程の環境性能を高めることをセットでやらねばならない。

LCAで各種パワートレーンの位置付けはどう変わるか。

 発電時のCO2排出量が国や地域によって異なるため、最適なパワートレーンもそれに応じて変わる。日本で2030年ごろを想定すると、バイオ燃料を少し含めるところまで踏み込めば、ライフサイクルCO2排出量で、HEVが最も優れるかもしれない。(HEVに必要な)エンジンの開発は、まだまだ頑張らないといけない。

 ただし、電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)といった他の技術とは僅差。技術の進展次第でどうなるか分からない。技術者の頑張り次第だ。

 一方で欧州では再生可能エネルギー比率が高くなる分、2030年段階でEVが優れるのではないだろうか。国と地域の政策や顧客の需要によって必要なパワートレーンは異なる。絞り切れないため、フルラインアップで開発するしかない。

欧州では2030年から販売する新車に対して、走行中のCO2排出量を21年比で37.5%下げる厳しい企業平均燃費(CAFE)規制を決めた。

 内燃機関だけの搭載車ではクリアできない。CO2排出量の規制値は60g台/kmになりそうだが、普通のエンジン車は90g台/kmが限界だ。電動化から逃げられない。

 欧州の2015年規制と2030年規制を比べると、CO2排出量を半分にすることを要求している。単純に言って2030年規制は、2015年時点の新車販売のうち、半分をEVにしなさいというものになっている。

 では実際に半分をEVにできるかというと、なかなか難しい。消費者側も買えないだろう。エンジン車とEVの間を埋めるため、HEVを頑張らないといけない。

 当社は現行の高出力型HEV技術を磨き上げていく。HEVでCO2排出量をゼロにすることはできないが、ゼロに向かってどれだけ頑張るかということだ。例えば、エンジンの熱効率を40数%以上にした上で、車両側の電費を含めた損失を3割以上減らす。

熱効率で50%達成の目標を掲げている。その先に60%もある。

 (50%達成は)技術的にやれると思っている。まだ無理だが。60%となると、ほとんどカルノーサイクルの理論値で無理だろう。

熱効率を大きく高める手段として、超希薄燃焼(スーパーリーンバーン)が注目を集めている。

 実験では、空気過剰率で2を超える超希薄燃焼を活用し、最高熱効率が47~48%に達している。理論空燃比(ストイキオメトリー)で燃焼した場合は45~46%くらいになる。

 2030年規制に備えるには超希薄燃焼がいる。2030年には(超希薄燃焼を実現したエンジン搭載車が)普及している必要があり、それより前に量産しないといけない。

マツダは2019年内に超希薄燃焼エンジンを量産する計画だ。遅すぎないか。

 社内で言っておく(苦笑)。ぽっと出すかもしれないよ(笑)。

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