AI(人工知能)の活用は様々な業種・分野で実証が進み、既に効果が出ている事例も登場している。AIは一過性のブームではなく、あらゆる分野で必要な汎用技術となってきた。だがまだその活用は始まったばかり。これからどのような広がりを見せるのかは見通しにくい。本特集では各分野の第一人者に、5年後に起こるAI活用の姿を尋ねていく。その1人目としてAI分野研究の第一人者である東京大学の松尾豊教授に、AI活用の全体像を聞いた。(聞き手は、森側 真一=日経BP総研 イノベーションICTラボ 上席研究員 兼 ビジネスAIセンター長)

現状、AIの活用はどのような分野で広がっているのでしょうか。

 全分野でAIの活用が広がっています。中でも医療分野での活用が先行中です。がんの画像による検知では、既に医師よりも高い精度で検知できる結果も出ています。製造業も先行している業種の1つで、これまでベテランが目視で実施してきた外観検査のAIによる自動化など多く活用されています。業界横断の分野ですが、空港の出入国時や医療機関の受付時など顔認証における活用も始まっています。

東京大学 松尾 豊 氏
1997年 東京大学工学部電子情報工学科卒業。2002年 同大学院博士課程修了。博士(工学)。産業技術総合研究所研究員、米スタンフォード大学客員研究員を経て、2007年より東京大学大学院工学系研究科准教授、2019年より教授。専門分野は、人工知能、深層学習、ウェブマイニング。2014年から2018年まで人工知能学会 倫理委員長。2017年より日本ディープラーニング協会理事長。2019年よりソフトバンクグループ社外取締役。(撮影:皆木 優子、以下同)
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 AI、主にディープラーニングの活用には、適用しやすいところと、適用に時間がかかるところがあります。今は、医療分野のような効果が出やすく適用しやすいところから表面化していますが、徐々に設備面など運用環境が整ってくれば様々な分野で実装が広まってくるでしょう。

 製造業では、自動車産業のように産業ロボットが既に普及しているような業界もさることながら、これまで人手でしかやれなかったことがAIで置き換えられるような業種が要注目です。例えば、食品業界の製造ラインで柔らかい物を的確につかんで作業するロボットハンドの活用などが挙げられます。食品業界では、弁当盛り付けを行うロボットや、たこ焼きを自動で焼くロボットもあり、これから大きな変化が起こる分野でしょう。

 そのほか、小売業でのカメラによる顧客行動の監視・分析、ファッショントレンドの分析、社員の表情分析によるメンタルヘルスチェックなど、すべてを挙げられませんが、あらゆる分野でAI活用が進んでいます。

AIの活用は中小企業と大企業とで差があるように見えます。

 大企業だけでなく、中小企業にもAI活用は広がっています。一般的にAI活用動向として出ている統計的な情報では、大企業の利用が多いようになっていますが、それは従来型のITやビッグデータおよび機械学習、ディープラーニング技術がごちゃ混ぜに語られているからです。もともとIT化すべきだった領域におけるIT活用が今AIとしてカウントされていることも多く、それが大企業に偏っているように見えるのでしょう。ディープラーニング技術だけで見れば、中小企業でもチャンスは等しく、活用を始めている企業も多く出てきています。

 従来型ITをAIと言っている状況については、懸念しています。ITの導入自体は適切に行えば価値があることですが、それをAIと呼んで過大な期待を持たせかねないからです。AIという言葉に対して、過度なマーケティングの揺り戻しが起こる時期にあります。ディープラーニングに限れば、画像認識によってできることは明らかなので、期待外れの状況は起こらないでしょう。何ができるかは、技術をビジネスにどうつなげるか次第です。

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