目からうろことは、このことか。我々の身近に昔からあって、これほど精度が高く、雨の降水状況を観測できる機器があったとは。

 それは、クルマに必ず付いているワイパーである。ワイパーが動いているということは、「そのクルマが今走っている場所は雨が降っている」ということに、ほぼ等しい。

 今回のデジタル活用(デジカツ)は、台風や大雨が頻発して被害が続出している昨今の日本において、天気予報を劇的に変える可能性を秘めた取り組みについてだ。

クルマのワイパーを使って、雨を観測した例。2019年10月3日10時50分時点における、名古屋での降水状況をワイパーの稼働データを基に見える化した。黄色の点はワイパーの動きが「弱」、赤色は「強」、灰色は「間欠(一定間隔で時々動く状態)」を示す。青色の塊は、上空にある雨雲の様子(資料:ウェザーニューズ)
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 ワイパーが最高の「雨センサー」になり得るという、あるようでなかった発想を実証しようとするプロジェクトが始動した。協業したのは、気象予報大手のウェザーニューズとトヨタ自動車。実験をするには、これ以上ない組み合わせだ。

 台風15号、19号による被害が、2019年9~10月に立て続けに発生。大雨対策が避けて通れなくなったこのタイミングで、ウェザーニューズとトヨタが手を組み、「ワイパーを使った降水の有無や強度を観測できるようにする」と、19年11月1日に発表したのは心強い話だ。

 ウェザーニューズの石橋知博執行役員は「天気予報の歴史が変わるかもしれない」と興奮気味に話す。私は長くウェザーニューズを取材してきたので、石橋氏の発言は決して大げさではないとみている。そこで発表直後、石橋氏とトヨタ側の担当者に真っ先に会い、直接話を聞くことにした。

右がウェザーニューズの石橋知博執行役員。左がトヨタ自動車の三笘佑介コネクティッドカンパニーITS・コネクティッド統括部データ活用企画グループ主幹(写真:日経アーキテクチュア)
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 11月1日の発表では「両社が実証実験を開始する」としているが、実際には水面下で研究を進めてきた経緯がある。ウェザーニューズは発表と同時に、「ワイパー天気予報」の名称で情報提供を開始している。まずは東京都と大阪府、愛知県の3都府県を対象にする。

 この情報がどれほど貴重なものなのか、石橋氏ら関係者4人に解説してもらった。

右の2人がウェザーニューズ、左の2人がトヨタのプロジェクトメンバー(写真:日経アーキテクチュア)
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 冒頭の画像を改めて見てほしい。主な雨雲は画像の上側(北)にある。しかしワイパーが動いているクルマは、雨雲より下側(南)に集中している。黄色の点が多いので、小雨が降っていると考えられる。

 このときは雨雲は既に通り過ぎているのに、風向きや強さ、雨の降り具合などの影響で、上空で発生した雨粒が風に流され、地上の南側ではまだ雨が降っていることが見て取れる。

 石橋氏は「従来の観測方法では、微弱な雨を正確に捉えることが難しかった」と明かす。雨量計は降水が少な過ぎると計測できない。雨雲レーダーは上空にある雲を見ているので、「地上の雨を正確に観測するのは苦手だった」(石橋氏)。

 それがクルマのワイパーなら、冒頭の画像のように地上(道路)の降水状況をかなり正確に観測できる。赤色の点が多ければ、大雨が降っているといえる。我々が知りたいのは地上の雨の状況なので、「ワイパーという雨センサーの実用化は画期的だ」(石橋氏)。

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