米国政府を動かすのは、ハイテク産業における中国の台頭に対する危機感と、それに関する米国の世論である。中でも、中国による知財・標準の覇権掌握、およびビッグデータの統制に対する危機感は強い。米国政府は不公正慣行を非難するが、中国は真っ向から反論している。

 米国政府の対中政策に影響を及ぼしているのは、ハイテク産業における中国の台頭に対する危機感と、それに関する米国の世論といえる。その論旨は、「中国が5G(第5世代移動通信システム)のインフラへの投資で先行し、2015年以降は米通信事業者の投資を大幅に上回っている。5Gのインフラ投資の遅れは自動運転やスマートシティーなどのIoT(Internet of Things)システムにおける米国の覇権の持続にとって致命的となる」というものだ。

 デロイトトーマツコンサルティングによると、2017年に中国では35万の通信セル塔(小型基地局)が敷設されたが、米国は3万塔に限られていた。中国は2018年時点で米国の10倍以上の190万塔を所有しており、国土単位面積当たりの密度は米国の40倍に相当する。デロイトトーマツコンサルティングは、この通信セル塔のインフラ投資の差から、米国の5G投資と比較して中国の投資効率ははるかに高く、IoTネットワークの早期展開に優位に働くとしている。

 中国政府主導の5Gインフラ投資に対して、米国では5Gインフラ投資の政府関与が議会などで議論された。しかし、2019年春に米国政府は5Gへの政府主導による投資に否定的な発表をし、従来通りの民間企業の投資余力と経済性判断の下で5Gインフラ投資が進められる見通しである。

知財・標準覇権に対する危機感

 中国は5G/IoT/AI(人工知能)分野での覇権掌握の手段として、知財権の確立を推進している。実際に中国ファーウェイ(華為技術)は、スウェーデン・エリクソン(Ericsson)やフィンランド・ノキア(Nokia)、米クアルコム(Qualcomm)などの欧米の通信機メーカーや半導体チップメーカーと特許出願数を競っている状況である。

 知財権の確立と並行するように、国際標準に対する関与も強めている。具体的には、5G国際標準の委員会での複数の幹部ポジションを確保する積極的な人的投資である。ファーウェイと中国ZTE(中興通訊)は、モバイル通信の国際標準を取り決める「3GPP」の主要メンバーで、国際標準の取り決めに対して大きな影響力を持つようになっている。

 モバイル通信業界において国際標準に対して影響力と特許権を行使した事例としては、Qualcommが起こした、米アップル(Apple)の米インテル(Intel)製チップ導入に対する特許侵害の訴訟が挙げられる。Qualcommは高度な国際標準戦略とライセンス交渉戦略、訴訟戦略を組み合わせることにより、競合企業に対する市場参入障壁を設け、チップ販売とライセンス収入を収益基盤の両輪としている。

 米国の懸念は、ファーウェイなどの中国勢が重要特許で知財権を確立し、かつ国際標準で影響力を行使した場合に、将来、米国や欧州、日本を含む先進国企業がファーウェイとライセンス許諾契約を締結しなければならない状況に陥ることである。欧米勢の5Gでの特許・国際標準の覇権喪失は、先進国企業の経済的損失に加えて、プライバシーやセキュリティーに対する脅威が生ずるとしている。

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