歩行速度「年齢プラス20歳」の評価に落胆、足が命の28歳記者がなぜ

アシックスとNECの歩行姿勢診断を体験

2019/08/21 05:00
窪野 薫=日経 xTECH

 歩く。日常的な何気ない行為だけに、その良しあしを自身で判断することは難しい。ただ、健康的な生活を追求するうえで基本となる重要な行為であることは間違いない。どうにか簡単に良しあしを判断できる仕組みはないだろうか。そんな、需要を捉えたのが、アシックスとNECソリューションイノベータが共同で開発した歩行姿勢診断システムだ。今回、28歳の男性記者が同システムを体験し、その実力を検証した(図1)。   

図1 アシックスとNECソリューションイノベータが共同で開発した歩行姿勢診断システム
測定の様子と手順(撮影:日経 xTECH)
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 体験の舞台は、東京都江東区新木場に構えるNECソリューションイノベータの社屋内。浜風が心地よい東京湾沿いの社屋の一室に、液晶画面を備えたテレビ台のような装置が鎮座していた。           

 まずは、生年月日などの個人情報を画面上で入力し、情報をひもづけて蓄積するために「FeliCa」などICカードを読み取り機にかざす。程なくして、「スタート位置でお待ちください」とのアナウンスが流れた。

 装置から約6m離れて待つ。「準備ができたらゴールに向かって歩いてください。どうぞ」。アナウンスに従い、装置に向かって真っすぐ歩いて近づく。「測定中です」「これで測定は終わりです」。ほんの数秒で、筆者にとって初めてとなる歩行姿勢の測定が終わった。

2歩分の動作を抽出

 このとき、歩く距離は6mだが、中間地点での2歩分(約1.5m)の動作を抽出して分析にかける。人の助走区間は2~3mであり、その間は正しい歩行姿勢を診断しにくい。足でブレーキをかけて停止する直前も同様だ。

 測定中の液晶画面には、カメラで撮影した筆者の姿に20個のマーカーがリアルタイムで重畳して映っていた。これは、RGB(赤・緑・青)カメラと深度センサーを備える米マイクロソフト(Microsoft)の3Dセンサー「Kinect」を使って実現している。カメラで撮影できるのは筆者の正面の姿のみだが、体までの距離を検知可能なKinectによって、歩行姿勢を立体的に認識できる。

 NECソリューションイノベータ、イノベーション戦略本部マネージャーの永井克幸氏によると「自社開発の解析システムで爪先の位置を特定可能にし、より詳細な歩行姿勢の診断に役立てている」という。

 いよいよ結果発表だ。

 「31歳か。悪くない結果だな」――。液晶画面に映る診断結果を見て筆者はこうつぶやいた。実年齢より3歳のプラスとなったのは想定の範囲内。歩行姿勢診断では、身体の軸や腕の振り、足の運びといった計6個の項目を、それぞれ5~1の数値で評価する。5が最高評価で、数値が小さくなるほど評価は悪い。いわば、歩き方に関する“通信簿”といったところだ(図2)。

図2 歩行姿勢の総合評価は「31歳」(実年齢プラス3歳)だった
(出所:NECソリューションイノベータ)
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 この通信簿で驚きの最低評価の1と出たのが、筆者の歩く速さだ。日ごろから記者として足を使った取材を重ねているだけに、この評価はふに落ちない。そしてプライドでもある。詳細を知るため、6項目を36個の指標で細分化して表示する次の画面に進んだ。

「速度年齢49歳」に

 そこには「速度年齢49歳」という結果が大きく表示されていた。何ということだ、実年齢よりも約20歳のプラスではないか。両足を動かすピッチやストライド(歩幅)も共に1という低評価だ(図3)。「バランス年齢」「姿勢年齢」といった項目については、実年齢マイナス7歳の21歳を示したが、自信があった歩行速度の思わぬ低評価が響き、総合評価の年齢は31歳まで引き上がったようだ。

図3 特に歩行速度の評価が低く年齢は「49歳」を示した
(出所:NECソリューションイノベータ)
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 細かく分かれた36個の指標のうち、「歩行速度は特に年齢との相関が強い重要な項目」(アシックス)とする。アシックスが手掛ける健康増進プログラムや、身体機能の訓練に特化したデイケアサービスの「Tryus(トライアス)」などで蓄積した、延べ数千人分のデータを解析してこのような結果を導いた。

 診断結果にショックを受けたが、それを真摯に受け止め、今後どのように改善していくかが、足が命の記者寿命を左右すると前向きに捉えた。実は、歩行姿勢診断システムには、2019年7月から新機能として「おすすめエクササイズ」が追加された。もともとこのシステムは、アシックスの歩行解析アルゴリズムに、NECソリューションイノベータの検知システムやユーザーインターフェース(UI)を組み合わせ、2017年に提供を開始したものである。

 新しく加わったおすすめエクササイズは、アシックスが蓄積した運動に関するデータを基に、個人に合わせた筋力トレーニングとストレッチなどのメニューを瞬時にはじき出し、歩行姿勢の改善に向けてアドバイスするサービスだ。エクササイズは希望する負荷の度合いに応じて段階的に選ぶことができ、若者から高齢者まで年齢を問わずに利用できるようになっている。

 例えば、歩行速度の改善が必要である筆者は計4個の提案を受けた(図4、5)。筋力トレーニングとしては、壁に両手をつき、太ももを素早く引き上げる「サイレイズ」や、椅子を使ったスクワットの提案があった。ストレッチでは、太ももの表と裏それぞれに効果のある運動をおすすめエクササイズとして提案された。

図4 歩行速度を改善する筋力トレーニングの提案
(出所:NECソリューションイノベータ)
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図5 歩行速度を改善するストレッチの提案
(出所:NECソリューションイノベータ)
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歩行データの外販も検討

 これまで歩行など体の動きをデータ化するシステムとしてはモーションキャプチャーが一般的だった。アシックスも製品開発用にかなり以前から使っているが、精度が高い専用装置は1億円を超えるものがあるほど高価だ。測定場所も研究所内を前提にしているため限定的で、多くの利用シーンで大量のデータを取得するのには不向きとなる。

 これに対し、同社がNECソリューションイノベータと開発したシステムの販売価格は約100万円。ゲーム向けに世界で普及したKinectをセンサーとして使うことで価格を2桁程度も下げた。もちろん、精度はモーションキャプチャーに劣るが、歩行診断に必要な性能は確保しており、簡易なシステムなのでさまざまな場所で測定できる。

 約100万円としている販売価格のうち、ソフトウエアとハードウエアの価格がおよそ半々となっている。さらなるコスト削減に向けて、Kinectを使わずに一般的なカメラを使って画像認識を組み合わせる技術の検討を始めている。さらに、収集したデータをクラウドに吸い上げて分析する手法も考案する。「利用シーンを広げ、手軽さをさらに追及したい」(NECソリューションイノベータ)とし、2020年夏には技術の大部分を確立できる見通しだ。

 2017年に提供を始めてから、これまでにデイケア施設や接骨院、スポーツジムなどに100機以上を納入してきた。その場で歩行改善のアドバイスまでを提供する新型機の投入で、さらなる拡販を狙う。「日本全国の幅広い地域に供給するともに、海外市場への展開も視野に入れる」(NECソリューションイノベータ)と意気込む。

 歩行姿勢診断システムをより安価で使い勝手の良いものに改良できれば、さらに利用者が増え、アシックスやNECソリューションイノベータが収集できるデータ量も増加していく。得られたデータは、現時点では自社内でのサービスや製品開発に活用範囲がとどまっているが、今後はデータの外販も検討するという。

 人間の移動データは多様な業界のキープレーヤーが欲する競争力の源泉だ。生命保険会社、健康機器や医療機器のメーカー、そして自動車メーカーをはじめとするモビリティー会社まで、データの販売候補は無数に存在する。

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