感染症テックは米マイクロソフトや米グーグルなどのIT大手も力を入れる。日本の技術にも期待がかかる。NECやスタートアップがあの手この手で感染症と戦い始めた。シンプルなやり方で感染症を押さえ込むテクノロジーの実像に迫る。

MSのナデラCEOが絶賛する技術

 インドにはマイクロソフトのサティア・ナデラCEO(最高経営責任者)が愛してやまない感染症テックがある。同社の研究開発部門、マイクロソフトリサーチ(MSR)インドが2014年に開発した「99DOTS」という結核の服薬支援サービスだ。結核は通常ならば6カ月間、抗菌薬を処方通りに飲めば治る。だが飲む量や回数を守らなければ、抗菌薬が利かない薬剤耐性菌が生まれることもある。99DOTSは患者が抗菌薬を処方通りに飲むのを支援するシステムを提供する。

エバーウェル・ヘルス・ソリューションズが開発した結核の薬を正しく服用するためのシステム(写真提供:インド・エバーウェル・ヘルス・ソリューションズ)
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 99DOTSの仕組みはこうだ。抗菌薬のパッケージ裏に電話番号を記載し、患者には1日分の服用が済んだらその番号に電話させる。電話代は無料だ。99DOTS側は患者が電話をかけてくれば高い確率で薬を服用したと判断できる。もし患者が薬を服用していないと分かったら、医療機関に知らせる。高度な技術を使わない、シンプルで安価なソリューションだ。

 MSRインドで99DOTSが生まれた背景には、インドが結核や薬剤耐性結核の高まん延国だという事情がある。「MSRは常に最先端の技術を研究しているが、資源や環境の制約がある発展途上国の場合は、シンプルなソリューションこそが影響力を持つ」。99DOTSの開発者の1人であるアンドリュー・クロス氏はそう話す。クロス氏らはMSRから独立してエバーウェル・ヘルス・ソリューションズを設立した。「技術の研究とその事業化には別の努力が要る」(クロス氏)と考えたからだ。同社は現在、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏が設立した慈善団体などの支援を受けて、インドやミャンマー、フィリピンなどでサービスを展開している。

 グーグルの兄弟会社も感染症テックに取り組む。米アルファベットの生命科学事業子会社である米ベリリー・ライフサイエンスは、ジカ熱やデング熱の原因となる蚊、「ネッタイシマカ」を根絶させる実験を繰り返している。

 不妊のオスの蚊を大量に育て、市街地に放出する。不妊のオスが野生のメスと交尾してメスが妊娠しても、その卵はふ化しない。従って蚊の数は次第に減っていく。2018年4~11月にカリフォルニア州フレズノで実験したところ、不妊のオスの蚊を放った場所は、放っていない場所と比べ蚊に刺される数が95%以上減少した。人や動物を刺すのはメスの蚊のみ、それも卵を産む前だけだ。ふ化しない卵を宿したメスは人を刺さない。

 これは「不妊虫放飼」と呼ぶ害虫駆除の方法で、従来はハエなどの駆除に使われてきた。だが蚊はハエより潰れやすく大量に育てるのが難しい。蚊の不妊虫放飼はこれまで成功例がほぼなかった。ベリリーは蚊の育成を自動化することで大量生産に成功した。育てた不妊の蚊をどこに何匹放出するのかを導くためのソフトウエアもつくった。オスの蚊とメスの蚊の選別は今は手作業だが、センサーによって素早く正確に選別する技術も開発中だ。

日本企業も発展途上国で挑戦

 NECは2019年6月、発展途上国におけるワクチン摂取率の向上を目指す活動を始めたと発表した。世界的な官民連携団体であるGaviワクチンアライアンスおよび英ケンブリッジ大学から独立した生体認証スタートアップのシムプリンツ・テクノロジーと連携。生体認証技術を活用することで発展途上国に住む1~5歳の幼児を対象にワクチン摂取率の向上を図る。

途上国の子どものワクチン接種率を高めるため、NECは幼児の指紋認証技術を活用(写真提供:英シムプリンツ・テクノロジー)
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 Gaviはこれまでに7億人の子どもへの予防接種を支援してきた。しかしまだ世界には約2000万人の幼児が標準的なワクチンの提供を受けられないでいる。発展途上国は出生登録や母子手帳が未整備であり、子どもを本人確認した上で正しくワクチンを接種するのが難しいためだ。

 そこで幼児を指紋によって本人確認することで、予防接種を受けられるようにする。幼児は指先が柔らかく指紋画像が不鮮明になりやすいため、これまでは指紋認証が難しかった。しかしNECの指紋認証エンジンを使うと認証率を99%にまで高められた。2020年代前半にバングラデシュとタンザニアで実証実験を始める計画だ。

 NECは社会の課題解決を目指す事業にいくつか取り組んでいる。「こうした事業を持続するためには、対価をどう得るかが重要だ。各国政府や国連機関などによる採用を働きかける」。NECグローバル事業推進本部国際機関グループの青木幹シニアマネージャーは意気込む。

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