最新のデジタルテクノロジーを活用すれば、経済の発展を待たなくても発展途上国に効果的な医療保健サービスが提供できるはずだ。国際連合の専門機関であるユニセフやWHO(世界保健機構)はそんなもくろもに基づき「感染症テック」への投資を進めている。人類の命を救うテクノロジーの最前線を追った。

ユニセフは2017年、マラウイで空撮や輸送など人道的用途でのドローン活用の実験を始めた(写真提供:UNICEF/Andrew Brown)
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 ほほ笑みながらドローンを掲げるのは、アフリカ南東部のマラウイに住む女性だ。1人当たりGDP(国内総生産)が351ドルという世界最貧国の一つであるマラウイ。この地で現在、世界最大級という5000平方キロメートルのドローン飛行テストエリアが設けられ、ドローンを使って医薬品を空輸する実証試験が国連児童基金(ユニセフ)の主導で進んでいる。

 5000平方キロメートルは千葉県の面積に相当する広さだ。企業や研究機関がその中でドローンを飛ばし、交通網が整備されていないへき地に医薬品を届けたり、エイズ感染の検査に使う血液サンプルを回収したりしている。

 結核、マラリア、エイズなど感染症の脅威に最もさらされているのは、発展途上国の幼い命だ。国際連合の専門機関であるユニセフは、世界中の子どもを感染症から守るのも使命の1つだ。ユニセフが期待するのがドローンやAI(人工知能)、ビッグデータなど最新のデジタルテクノロジーによる感染症対策である「感染症テック」だ。

 従来は国が発展して豊かになり、交通網や物流網などが整備されなければ、効果的な医療保健サービスは提供できないとされていた。しかし今はドローンを活用すれば、道路網の整備を待たずとも迅速かつ安価に医薬品をへき地に届けられる可能性がある。ユニセフはそんなもくろみに基づき、アフリカのマラウイとシエラレオネ、南太平洋に浮かぶバヌアツ、中央アジアのカザフスタンなどでドローンを活用するプロジェクトを進めている。

 2018年12月にはバヌアツで民間ドローンを使用したワクチンの輸送に世界で初めて成功した。エロマンゴ島西部にあるディロンズベイから山岳地帯を抜けて東部のクックズベイまで約40キロメートルの距離を、ワクチンと氷袋、温度測定記録装置が入った発泡スチロールの箱を抱えた双翼式のドローンが飛び、ワクチンを送り届けた。

バヌアツでワクチンを運んだドローン
出典:ユニセフ
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 ワクチンは一定の温度で運ぶ必要がある。熱帯と亜熱帯に位置するバヌアツの場合、輸送時の温度管理が難しい。島は道路も少なく、ワクチンを入れた保冷ボックスを抱えて海を渡り、山岳部を歩いて運ぶのは困難だ。そのためバヌアツに住む子どもの5人に1人が幼少期に必要なワクチンを接種できずにいた。そんな状況がドローンで一変する可能性がある。

感染症の流行をビッグデータで予測

 ユニセフが感染症テックに乗り出したのは2007年だ。これまでもビッグデータ分析プラットフォーム「マジックボックス」などを開発してきた。携帯電話の利用状況など人間の行動データを匿名化した上で民間企業からリアルタイムに収集し、効率的に分析するプラットフォームだ。米グーグルや米IBM、旅行業向けシステムの世界大手であるスペインのアマデウスITグループ、スペインの通信大手テレフォニカなどと協力して開発した。

ユニセフが開発した「マジックボックス」で感染症対策の拠点となる各国の学校をマッピングした画面(画像出所:ユニセフ)
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 マジックボックスは人間の行動パターンに基づいて感染症の流行パターンを予測し、流行を予防したり特定地域に封じ込めたりするのに役立っている。初めて実戦投入したのは2014年に西アフリカで発生したエボラ出血熱のアウトブレイク(集団感染)。2015年に南米でジカ熱のアウトブレイクが発生した際にも流行の予測に用いた。2018年春からは携帯電話の記録に基づく人間の移動データをテレフォニカがユニセフに提供し、ジカ熱の流行を1000以上の市町村で予測するモデルも開発する。

 「グローバル化で国をまたいだ人の移動が活発になり、感染症の流行スピードが速くなった。しかし技術の進歩も早いので、感染症の流行を予測して対策を打てる」。ユニセフのクリストファー・ファビアン プリンシパル・アドバイザー・オン・イノベーションは本誌にそう語る。

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