ソフトバンク・ビジョン・ファンドなどが2億ドル(約210億円)を投じる米プレンティ(Plenty)は、独自の植物工場を開発する農業スタートアップだ。既存の植物学にとらわれない発想で開発したAI(人工知能)が植物工場を制御することで、優れた風味の野菜や果物をわずかな水使用量で栽培できるという。

 プレンティの植物工場は独自の「垂直農法」であり、文字通り垂直に立てた柱のような栽培装置で葉物野菜や果物を栽培する。土は使わない。ミネラルや栄養素を加えた少量の水を栽培装置内で循環させて野菜を水耕栽培する。水は工場内でリサイクルするため、屋外の農場で野菜を栽培するのに比べて、水の使用量は20分の1にすぎないという。

写真●自社の植物工場を紹介する米プレンティのマット・バーナード最高経営責任者(CEO)
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 例えば同社の本社工場は5万平方フィート(4645平方メートル)の室内に、赤外線カメラを7500個、温度や湿度、二酸化炭素の濃度を測るセンサーを3万5000個設置。LED照明の強さや波長、温度、湿度などを作物にとって最適な状態にコントロールする。

最高の風味をもたらすAIを開発

 同社のマット・バーナード最高経営責任者(CEO)は「野菜や果物の風味や生産性は、植物工場で制御可能な30種類のパラメーターの設定次第で大きく変化する」と語る。700種類もの作物について、気候などの条件に合わせて最適なパラメーターを調整するAIを機械学習によって開発できたことが同社の最大の強みだという。

写真●インタビューに応じたバーナードCEO
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 「健康に良い野菜として人気の高いケールは苦みがあるため、米国でもケールが苦手という人は少なくない。そんな人でも『プレンティの作ったケールなら食べられる』と言ってくれる」。バーナードCEOは同社のAIによる「風味調整」の成果をそう語る。

 風味だけでなく生産性でも大きな成果を上げたという。同社のデータサイエンティストは2018年、ある作物の収穫を大きく増やすことに成功した。プレンティによる収穫量の増分は、その作物における過去300年間の収穫量の増分に匹敵するのだという。つまり既存の農法が300年かかった進歩を、AIが1年で成し遂げたことになる。

 プレンティの本社はシリコンバレーにあるが、AIを開発しているのはワイオミング州にある「AIトレーニングセンター」と呼ぶ実験施設だ。同社のアプローチで興味深いのは「植物学のことをよく知らないデータサイエンティストがAIを開発している」(バーナードCEO)点だ。植物学に詳しい人間がAIを学んだ上でAIを開発したり、データサイエンティストに植物学をしっかり学ばせたりする手法は採用していない。

既存の植物学とは距離

 バーナードCEOはその理由を「既存の植物学にバイアスされたくない(影響を受けたくない)からだ」と語る。「既存の植物学は温度や水量などの環境をコントロールできない前提に立っている。それに対して我々の植物工場では全ての環境をコントロールできる」(同)との考えが背景にはある。

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