垂直記録の研究を進める東芝の研究チームでは、限られた実験環境の中で地道な努力が続いていた。日立製作所が華々しく学会報告した2000年には、積年の課題を解決する成果を上げた。だが、社内外での大きな反響にはつながらない。研究チームは要素技術の評価から一足飛びに、製品と同じ形の試作機を組み上げる方向に舵を切った…。

※本記事は、2006年発行の『日経エレクトロニクス』に掲載された記事を再構成・転載したものです。記事中の肩書きや情報は掲載当時のものです。

 「期待はしても、当てにはできない」――。いつしか、東芝社内で垂直記録方式はこう揶揄されるようになっていた。1998年に開発を本格化して以来、ヘッドや記録媒体など部品での成果は上がっているようだが、HDDとしての姿を見たことがない。その認識を改めようと、田中陽一郎の命を受けた下村和人らは、2000年後半から垂直記録方式のHDDの試作に必死に取り組んでいた。

東芝は2002年1月30日に青梅事業所で開催した技術展示会で、垂直記録方式を用いた複数のHDDを市販のノート・パソコンに組み込んで動作させるデモを実演した。面記録密度35Gビット/(インチ)2のHDDを搭載したノート・パソコンでは、動画を再生して見せた。
[画像のクリックで拡大表示]

 手探りで改良を続ける中で、下村は徐々に手応えをつかみつつあった。2001年初頭には、HDDの形で恒温槽に入れて、温度を上げた状態で動作を確かめるところまでこぎ着けた。高温で試験すると、熱揺らぎに対する垂直記録方式の強さがはっきりと分かった。

 それからさらに半年近くたった2001年5月。ついにディスク片面のすべてで読み書きできる試作機が出来上がった。密度は21Gビット/(インチ)2、容量はディスク片面で6Gバイトである。

 「ようやくだね」

 「いやー長かった」

 これでヘッドだけ、記録媒体だけの評価から踏み出せる。製品開発部門に胸を張って提示できる、大きな成果である。青梅事業所の20号建屋と呼ばれる建物の一室で、田中らは自分達の快挙に酔いしれた。

この先は会員の登録が必要です。有料会員(月額プラン)は初月無料!

日経 xTECHには有料記事(有料会員向けまたは定期購読者向け)、無料記事(登録会員向け)、フリー記事(誰でも閲覧可能)があります。有料記事でも、登録会員向け配信期間は登録会員への登録が必要な場合があります。有料会員と登録会員に関するFAQはこちら