日本で発明され、今や世界中の情報通信インフラを支えるエレクトロニクス技術がある。ハード・ディスク装置(HDD)のデータ記録技術「垂直磁気記録(垂直記録)」だ。原理を提唱した人物は、当時東北大学の教授だった岩崎俊一氏(現・東北工業大学 理事長)。1977年のことである。米国での学会発表は業界の枠を超え、社会に大きな衝撃を与えた…。

※本記事は、2006年発行の『日経エレクトロニクス』に掲載された記事を再構成・転載したものです。記事中の肩書きや情報は掲載当時のものです。

短い黄金時代

 そして、垂直記録方式の黄金時代が始まった。学会では1980年ごろから垂直記録方式に関連した論文数が 右肩上がりで増加した。米国では垂直記録方式のフロッピー・ディスク装置 (FDD)を開発する米Vertimag社や HDDの開発を目指す米Censtor Corp. などの多数のベンチャー企業が生まれた。日本でも垂直記録方式の研究を始める大手電機メーカーが続々と現れた。

 岩崎の発表から数年後、一足先にFDDが垂直記録方式の採用に向かった。東京芝浦電気(当時)は1982年に3.5インチFDDを試作し、Vertimag社は1983年にも垂直記録方式を用いたFDDを製品化すると発表した。1985年、東芝が垂直記録媒体の一種であるBaフェライト媒体を使う3.5インチFDDのサンプル出荷を始めた。当時は、これを垂直記録方式の実用化例と見なす向きが多かった。

岩崎氏がIntermag 1975で発表した論文「An analysis for the circular mode of magnetization in short wavelength recording」(上)と、Intermag 1977で発表した論文「An analysis for the magnetization mode for high density magnetic recording」(下)。
[画像のクリックで拡大表示]

 垂直記録方式に逆風が吹き出したのは、このころからだろうか。東芝が投入したFDDはなかなか普及しなかった。媒体を交換して使うFDDであったため、規格が広まらなければ装置の普及もままならないという悪循環に陥ってしまった。

 何よりも容量が小さかった。アンフォーマット状態で4Mバイト。当時の規格の4倍に当たるものの、長手記録方式でも十分実現できた値である。面記録密度は4.7Mビット/(インチ)2で、IBM社の大型磁気ディスク装置の1/5程度だった。

 東芝は1987年に関連技術の有償供与に踏み切り、仲間づくりを始めた。この策は功を奏し、他社もこの規格に沿った製品を製造し始める。1991年にはついにIBM社がパソコン「PS/2」に標準搭載した。しかし、それでも市場は盛り上がらなかった。下位互換性が不十分と指摘されるなど、垂直記録方式の実力を発揮する以前に、この製品は時代の波間に消えていった。

この先は会員の登録が必要です。有料会員(月額プラン)は初月無料!

日経 xTECHには有料記事(有料会員向けまたは定期購読者向け)、無料記事(登録会員向け)、フリー記事(誰でも閲覧可能)があります。有料記事でも、登録会員向け配信期間は登録会員への登録が必要な場合があります。有料会員と登録会員に関するFAQはこちら