技術開発や先端ビジネスの世界でも、ますます米中の覇権争いが激しくなってきた。AI(人工知能)や自動運転など、近未来の社会を大きく変える技術競争の中で、日本の存在感がますます薄れつつあるように見える。

 そうした中で、新装開店した「華麗なる技術者」の第1回では、VR(仮想現実)の分野で、世界を目指して日夜ビジネス開発に励む若き兄弟をご紹介したい。

 兄の名は藤川啓吾、弟は藤川駿。専門学校卒業後、それぞれが違った道に進み始めていたが、2人は2016年7月にVRゲームの制作会社「EXPVR」を共同で設立(2019年5月31日に「UNIVRS」に社名変更)。「VR兄弟」としても知られている。

写真中央が兄の藤川啓吾氏、右が弟の藤川駿氏。左は筆者の加藤幹之氏。(写真:加藤 康)
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 2人は福岡県嘉穂郡桂川町(けいせんまち)に生まれ、高校卒業までそこで暮らす。桂川町は福岡県のほぼ中央に位置し、福岡市や北九州市にも通える、人口1万3000人余りの自治体である。父親は県の事務系職員、母親も保健師としてずっと仕事を続けたので、幼い頃は両親の祖父母の世話になることも多かった。

 兄は1988年生まれ、弟は1991年生まれと学年が3年違いであったため、2人は中学・高校とも同時期に居合わせたことはない。兄は高校卒業後、福岡コミュニケーションアート専門学校(当時、2018年4月に福岡デザイン&テクノロジー専門学校に校名変更)に進み、卒業後は主にCI(コーポレートアイデンティティー)デザイナーとして活動した。一方、弟は専門学校HAL東京で組み込みソフトの開発を学び、SUBARUでエンジンの量産化の検証や調整を行っていた。

 兄の高校卒業後はほぼ別々の道を歩んでいた2人が、それから約10年後に再び導き合い、共同で会社を興した。それぞれが特徴と主張を持った2人が、共通の目的に向かって共同で事業を行う、今までとは違った華麗なる技術者(たち)に興味を持ち、今回インタビューを依頼した。

 2人の目指すVRの特徴は、「酔わないVR」である。最近は、PCと接続して使用するタイプやスタンドアローン型のものを含め、VRデバイスの性能が向上し、急速に普及しつつある。それらを使ってゲームをしたり、アニメを見たりする場合に障害となるのが、いわゆる「VR酔い」であった。VRデバイスを着けて、動く画面を見ると、車酔いのときのように、気分が悪くなるのである。VR酔いの解決方法として、画面内の移動時に目的地まで連続的に移動するのではなく、一気に目的地に移動するワープ方式が使われることが多い。しかし、ワープ方式では臨場感は大きく制約される。

 そこで2人は、VR使用者が体を動かして状況を直感的に予測できるようにすることで、酔いを引き起こさない技術を開発し、特許も出願した。車酔いの場合も、進路の変更や道路の状況をより理解している運転者の方が酔いにくいといわれており、それとも共通しているようだ。

酔わないVRの技術
© UNIVRS, Inc.
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 UNIVRSは2019年6月21日、アニメ「リトルウィッチアカデミア」のVRゲーム「リトルウィッチアカデミア-VRホウキレース-(仮)」について、クラウドファンディングで開発資金を募る計画を発表した。このVRゲームでは、同社の「酔わないVR」技術を駆使することで、「まるでプレーヤー自身が空を飛んでいるかのような最高の飛行体験」(同社)を提供するという。

© 2017 TRIGGER/吉成曜/「リトルウィッチアカデミア」製作委員会 © UNIVRS

 さらに、米国ロサンゼルスで同年7月4~7日に開催された「Anime Expo 2019」に出展し、プロトタイプ版の体験会を実施。800人以上のファンが体験した。日本のアニメをはじめとしたコンテンツは、海外では根強いファンを持つといわれるが、UNIVRSはコンテンツに最新のVR技術を組み合わせることで、ジャパンコンテンツの魅力を付加できるのではないだろうか。

 このような斬新な技術を生み出したVR兄弟とは何者なのか。2人の生い立ちをもう少し詳しく見てみよう。

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