ただ私はこれを従業員に話をしたときに、「いや会長、生産性が上がった方がいいのは国とか企業にとってはよく分かります」と。ただ「生産性が上がったら私たちにとっていいことがあるんでしょうか」と従業員から言われました。そこで次のスライドを作りました。

働き手にとって「生産性」はなぜ重要なのか
(出所:ロイヤルホールディングス)
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 従業員1人当たりの報酬とは、総人件費を従業員の数で割ったものです。当然、総人件費が上がれば1人当たりの報酬も上がります。

 この分数を2つに分解してみると、「従業員数分の付加価値×付加価値分の総人件費」で分けられます。分数ですから分母と分子を消せば元に戻るということを言っているだけです。

 これが示す意味は何かというと、1人当たりの報酬を上げるためには、左の項が一定なら右の項が上がれば全体が上がります。逆に右の項が一定であれば左の項が上がれば全体が上がります。この左と右の2つの分数は何かというと、向かって左側は生産性です。1人当たりの付加価値です。右側は生み出された付加価値のうち、どれだけ人件費に分配したか。まさしく労働分配率です。

 なぜ生産性が大事かというと、従業員1人当たりの報酬を上げていくためにはこの2つの分数のどちらかを上げるしかないからです。でも労働分配率というからにはほかにも分配している相手がいます。株主への分配であったり租税という形で国への分配だったり。ということは、ここの分配率を上げていくことだけでは企業は維持できないんですね。なぜかというと、ほかのステークホルダーから不満が生まれるからなんです。

 それに対して生産性を上げていくことができれば、分配率を変えなくても従業員の報酬を上げていくことができる。だからこそ生産性なのです。

 テクノロジーが非常にサービス産業にとっては縁遠いのと同じように、生産性も結構縁遠い言葉なんです。でも、これからの時代を考えていく上では、やはり生産性というものを上げていくことによって従業員の満足度も上げていくということが必要だと思っています。

すべてのステークホルダーの満足度を上げる

 我々はこういった地域、お客さま、従業員、取引先、株主、さまざまなステークホルダーへの分配をフェアに増やしていくためにも、先ほど申し上げた付加価値の向上、新規市場の開拓、そして効率性の向上を組み合わせることによって、生産性を上げてすべてのステークホルダーの満足度を上げていくということに今チャレンジしています。

 そのためには今日のテーマであるテクノロジー、これはお客さまにとってみれば「ニーズに合致した商品や基礎的な満足度の向上」。従業員にとってみれば「根源的に自分たちがやりたいことへの集中もしくはダイバーシティーのサポート」。取引先にとっては「ビジネスチャンスの拡大」。株主にとっては「ビジネスモデルの安定化」。

 つまり、テクノロジーをサービス産業にうまく浸透させることによって、すべてのステークホルダーの満足度を上げることができるのではないかと思います。ただ、先ほど申し上げた通りこれまで縁遠いものでしたから、さまざまな実験をすることと、そしてその実験が意味することをいかに現場に対して伝えていくかということが、我々に今、求められていると思います。

 「サービス産業の強みは何ですか」とか、「ライバル企業さんの強みは何ですか」と聞かれたときによく言われる言葉に「現場力」があります。サービス産業だけではなく、日本の1つの強みは間違いなく現場力だと思います。

 課題が起きたときに現場の人たちが課題解決を図って答えを出していく。でも、恐らく私はこの10年、もしくは20年、さまざまな課題に対して現場力にすべてを押し付け過ぎたのではないかなと、自戒の意味も込めての思いを持っています。

 やはり物事には、起きていることに対して現場力で解消できる問題と、現場力では何ともならない問題があると思います。そこを現場力に押し付け過ぎたことが、今日の現場の疲弊にも結び付いているのではないかと思います。

 経営に現場力は大事です。我々がやらなくてはいけないことは、日本のすごく大事な価値である現場力を発揮できるように、現場力がきちんと機能するように経営力をしっかりと高めていくことです。

 今起きている問題とこれからもっと起きていく問題に対して。今起きている問題はすべて一時的な問題ではなくて、構造的なものであってさらに厳しくなっていきます。そこに対してどういう答えを出していくのかということが問われているのだと思います。

 私の今日の話は、まだまだ「答え」ではなくて、我々自身もいろいろな研究や実験をして答えを出そうとしているという話です。サービス産業、外食産業がより良い産業になるために我々も頑張っていきたいと思いますので、ぜひ皆さまからのご支援をお願い申し上げて私からのお話とさせていただきます。皆さまどうもありがとうございました。

日経BPが2019年7月に開催したIT関連イベント「IT Japan 2019」における基調講演を基に構成しました。