東京芸術大学付属図書館の書庫棟の増築計画は、新たな蔵書の保管スペースと学外向けワークショップなどを行うイベントスペースの増設によって、大学図書館という枠組みを超え、その豊富なリソースを公開、発表する施設にするものである。

書庫棟の外観。右手の既存図書館棟とつながる。左の隣棟は正木記念館(写真:野田 東徳)
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断面図
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 既存の付属図書館は1964年の竣工時から大きな改修をされることなく、当時の姿をそのまま残していたが、竣工から50年以上が経過し、すでに蔵書量は120%を超えていた。

 その結果、戦前から収集されてきた芸術に特化した多様なフォーマットの貴重な資料群は、大閲覧室の大きなスペースに閲覧席を減らして増設した書架に平積みにされながらも、その開架率は30%程度となってしまっていた。

 しかし図書館の調査では、そのような状況でも利用者が多く、そして、それにもかかわらず、閲覧机が混雑する様子はないとのことだった。

 不思議に思って現地調査をすると、学生たちは書庫の隙間に座り込み、書架の本をあさるように閲覧したり、大判の書籍を自然光の当たる近くの書架の上で眺めたり、ヘッドホンを着け楽譜台を眺めリズムを刻んでいたり、といった独自の多様な蔵書の利用方法がそこここに点在していた。

 その光景は、一般的な図書館としては少し異質ではあるものの、創作を主とするこの大学らしい、学生と蔵書との生き生きとした対峙方法のように見えるものだった。

 通常、図書館といえば整然と机が並んだ禁欲的で緊張感を持った「閲覧室」の空間が印象的で、新しい図書館を計画する際にも、どのような閲覧室を見せ場としてつくるかが建築における大きな主題となる。

 しかしその一方で近年では、一昔前まで閲覧室で行わざるを得なかった行為の多くが街中のどこでも気軽にできるようになり、図書館の閲覧室は単なる自習・休息スペースになってしまった所も増えている。

 この図書館の増築に際し、私たちは形式化した「閲覧室」というものに縛られず、この図書館に根付いた芸大生と蔵書の生な対峙方法に即した、芸大ならではの図書館の提案が必要だと考えた。

 新たな図書館に求められた蔵書量は、既存の蔵書に加え、今後20年間での増加量を見込んだ53万冊。これを増築棟と既存書架のみに収めようとすれば、20年後には蔵書の7割以上が閉架書庫内に収まることになる。閉架書庫に収められてしまえば、知らない本に出合う確率は大幅に減少する。

 ここでは蔵書の開架率を上げ、人知れず眠っている独自の貴重なリソースにじかに出会い、触れられる場とすることを重視した。

 そして、書架の隙間や将来の書架の増設スペースの中に小さな閲覧スペースを点在させることで、膨大な貴重蔵書と学生が対峙するための「閲覧室のない図書館」にたどり着いた。

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