2019年6月に開催された学会「VLSI Symposia 2019」。相次いで発表されたのが、「AIチップ」とも呼ばれる深層ニューラルネットワーク(DNN)チップ向けの各種技術である。性能改善が遅いCPUコアに代わって、DNNチップは今後の半導体の大きなトレンドの1つになりそうだ。DNNチップが不揮発性メモリーのキラー用途となる可能性も見えつつある。VLSIシンポジウムの内容を2回に分けて解説する。

 2019年6月に京都で開催されたIEEE主催の国際学会「2019 Symposia on VLSI Technology and Circuits」(以下、VLSIシンポジウム)では、昨今の人工知能(AI)技術の台頭を反映して、深層ニューラルネットワーク(DNN)の専用ICまたはIPコアの設計が大きなトレンドの1つになった。

 そして、早くも次世代となるDNNチップの試作例の発表が相次いだ。これを実現する各種の不揮発性メモリー、例えばReRAMやPCM、STT-MRAMなどにも再び脚光が当たり始めた。東芝メモリのように、銀(Ag)イオンを用いた新しいメモリー技術を発表した例も出てきた。

†ReRAM(Resistive RAM)=絶縁体材料に電圧を印可し、そこにフィラメント状に金属イオンなどが入り込むことで抵抗値が変化することを利用した不揮発性メモリー。利用するイオンは、銅(Cu)イオンや酸素(O)イオンが多い。

†PCM(Phase-Change Memory)=熱を加えると結晶状態が相転移し、電気抵抗値が大きく変化する材料を用いた不揮発性メモリー。主にゲルマニウム(Ge)、アンチモン(Sb)、テルル(Te)の3材料の化合物を用いることが多い。

†STT-MRAM(Spin Transfer Torque - Magnetoresistive RAM)=磁気抵抗変化型メモリーの一種。記録層(または自由層)と参照層(または固定層)と呼ぶ磁性材料の2層をMgOなど薄い酸化物層を挟んで配置した「MTJ(磁気トンネル接合)」という素子を用いる。参照層に対して記録層の磁化の向きが異なると、電子が酸化物層をトンネルする確率が変わることをメモリーとして利用する。

エッジ用DNNチップが続々

 DNNプロセッサーは、米Googleの「Tensor Processing Unit(TPU)」など、サーバー(クラウド)向けの製品が3年ほど前に登場済みだが、端末機器向けICの実用化は最近本格化しはじめたところだ。

 製造プロセスの微細化が遅れ、大幅な高性能化を見込めなくなったCPUコアに代わって、製品の付加価値を大きく高める技術として各半導体メーカーや製品ベンダーの期待を集めている。

VR空間中で仮想ピアノを演奏

 その1つが、米Microsoftが2019年内に一般発売する予定のMR(Mixed Reality)向けヘッドセット「HoloLens 2」で、DNNのIPコアを採用したことだ(図1)。

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図1 Microsoftが「HoloLens 2」に「DNN推論エンジン」を採用
Microsoftが「HoloLens 2」に搭載した「DNN推論エンジン」の概要。SIMD(Single Instruction Multiple Data)方式のMAC(積和演算)が中核となっている(a)。HoloLens 2には利用者の目だけを撮影するカメラが実装されており、利用者の目の虹彩認証や視線追跡を実現する(b)。DNNコアは、この利用者の目のセグメンテーション(区分化)やモデル化と、利用者の手を認識・追跡するためのセグメンテーションやモデル化に利用している。(図と写真:IEEE)

 利用者の目や手の動きを詳細に把握し、操作性を飛躍的に高める手段になったとする。その技術的詳細を今回のVLSIシンポジウムで発表した(講演番号JFS2-5)。

 具体的な用途は、利用者の目を対象にした虹彩認証や視線追跡、そして利用者の手の検出とモデル化だ。指の動きを正確に把握することで、利用者がVR(Virtual Reality)空間の中にしかない仮想的なピアノを弾くといったことができるとする。

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