音声合成技術の用途が拡大している。音声が持つ力で製品やサービスの価値を高めようとする企業が増えているのだ。さらに、音声そのものや合成エンジンを流通させるプラットフォームビジネスも登場してきた。そのような状況を見据えて、音声の持ち主の権利を確立しようとする動きも出ている。

 音声を使って製品に愛着を持たせようというシャープの試みからも分かるように、音声はコミュニケーション手段として非常に大きな可能性を秘めている。中でも著名な芸能人やキャラクター(を演じる声優)などの音声は、ファンにとって何物にも代えがたい魅力がある。そのような特性を生かして、音声合成技術で製品やサービスの価値を高めようとする取り組みも目立つようになってきた。

 ソニーモバイルコミュニケーションズのワイヤレスヘッドセット「Xperia Ear Duo XEA20」は、まさにそんな狙いで開発した製品だ。XEA20自体はイヤホン/マイク/タッチパッドなどを一体化した機器であり、Androidアプリ「Assistant for Xperia」と連携させることで、テキストの読み上げやスマートフォンの音声操作といったパーソナルアシスタント機能が利用できる。同機能に音声合成技術を使っており、人気声優の寿美菜子氏の音声で合成エンジンを作成した。音声合成技術は、東芝デジタルソリューションズが開発した。

人気声優の音声で価値を高める
ソニーモバイルコミュニケーションズのワイヤレスヘッドセット「Xperia Ear Duo XEA20」では、パーソナルアシスタント機能の音声に人気声優を起用した。話す内容や状況に応じて合成音声と収録音声を使い分けることによって、効果の最大化を図っている。(図:ソニーモバイルコミュニケーションズ)
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 その特徴は、合成音声だけではなく、話す内容や状況に応じて収録音声も使うことである。使い分けは非常に細かく、両者が混在している場合も多い。例えば、朝のあいさつであれば、まずユーザー名(ユーザーが任意で設定)を合成音声で発してから、収録音声で「おはよう。今日もずっと、そばにいるよ」と続ける。同じく朝のニュースを読む機能では、見出しを幾つか合成音声で紹介し、収録音声で「これでニュースを終わるね。今日も元気に過ごそうね!」と締める。

 合成音声を使うのは、前述したユーザー名やニュースの見出しの他、メッセージアプリ「LINE」のメッセージなど、事前に内容を想定できないものである。一方、「アシスタントの気持ちを伝えたい発話には、そのニュアンスがはっきり伝わる収録音声を使う」(ソニーモバイルコミュニケーションズ)。このように両者を使い分けることで、人気声優の音声という“武器”を最大限に生かしている。製品企画を担当した同社第3ビジネスユニット事業推進1課の青山龍氏によれば、合成音声と収録音声を続けて出力する際にユーザーが違和感を覚えないように、両者のテンポをそろえるなどの調整を加えているという。

 実在の人物ではないが、著名なキャラクターの音声を生かした事例としては、XEA20とAssistant for Xperia向け有償プラグインアプリ「Xperia Ear Duo(アスナ)」が挙げられる。パーソナルアシスタント機能の音声をライトノベル「ソードアート・オンライン」のメインヒロインである「アスナ」の音声に変更できるというものだ。ソードアート・オンラインは、原作シリーズの累計発行部数が全世界で2200万部を超えている人気作品である。同作品のアニメなどでもアスナの声を担当する人気声優の戸松遥氏を起用しただけではなく、アスナの口調なども含めて再現。それによって、同作品や戸松氏のファンへの訴求力を高めている。

著名キャラクターの音声や口調を再現
XEA20とライトノベル「ソードアート・オンライン」のコラボレーション企画。XEA20のパーソナルアシスタント機能の音声を、同作品のメインヒロイン「アスナ」に変えられる。アスナの音声や口調を再現し、同作品のファンなどに訴求した。図はXEA20本体と限定色のリングサポーター(本体装着時に耳に接触する部品)などをセットにした「スペシャルパッケージ」で、2018年12月末に本数限定で発売したところ、想定を上回る受注があり、増産して対応した。現在は受注を停止しているが、2019年中に受注を再開する予定があるという。(図:ソニーモバイルコミュニケーションズ)
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 Xperia Ear Duo(アスナ)の価格は1500円(税込み)と、スマホ向けのアプリとしては高額といえる。身もふたもない言い方をすれば音声が変わるだけだが、逆にいえばその音声にそれだけの価値を見いだすユーザーが少なからず存在する。

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