いよいよ日本での引き渡しが始まった「ホンダジェット」。エンジンを胴体ではなく主翼に取り付けるという、常識破りの形状は、いかにして生まれたのか。まだホンダジェットの量産が始まる前の2012年に、生みの親である藤野道格氏が『日経ものづくり』に語った開発秘話をお届けする。

※本記事は、『日経ものづくり』2012年4月号に掲載された記事を再構成・転載したものです。記事中の肩書きや情報は掲載当時のものです。

 「HondaJet」は、小さい都市間を直接結ぶ交通システムというコンセプトの下で開発しました。ビジネスマンが出張などで日常的に使うことを想定し、低料金で利用できることと、乗客スペースを広げることを大きな目標として掲げたんです。

藤野道格(ふじの・みちまさ)
1960年生まれ。1984年東京大学工学部航空学科卒、同年本田技術研究所入社。1986年から飛行機開発に携わり、1997年プロジェクト・リーダーに。2005年米Honda R&D Americas副社長、2006年米Honda Aircraft社長に就任し、現在に至る。(写真:尾関裕士)

 しかし、この2つの設計要件って、矛盾していますよね。利用料金を下げるには燃料消費を減らさなければなりませんし、乗客のスペースを増やすには機体を大きくして客室を広げなければなりませんから。

 つまり、HondaJetの開発では相反する設計要件を同時に実現しなければならなかったのです。それには普通のジェット機と同じことをしていてはダメ。ブレークスルーが求められました。それが、エンジンを胴体ではなく主翼に取り付けるという、あの常識破りの形だったんです。

「選手生命が終わるぞ」

 ただ、あまりに常識とかけ離れた形なので、当初は、大多数が実現不可能と反対していました。ですから、ほとんどの人が「できない」ということを必死に証明したがるんですが、私の中には「できる」というロジックがありました。

 飛行機という乗り物は物理法則に従って飛びます。逆に言えば、物理法則から逸脱することはあり得ません。主翼にエンジンを取り付けるというアイデアも適当に思い付いたわけではなく、物理法則に基づいて考えたものです。理論的なバックグラウンドの下、計算や実験を繰り返した末にたどり着いた結果なんです。

 特に日本では、誰もやっていないような新しい研究を始めようとすると、必ず「他にやっているところはあるか」と聞かれます。これに対し「米国のA社がやっています」とか「米航空宇宙局(NASA)がやっています」と答えると「よし、やれ」、逆に「世界中で他にやっているところはありません」と返すと「じゃあ、可能性がないからやめろ」となる。本当の研究というのは、逆だと思いませんか。

 だから、私は最初の論文をそんな日本ではなく米国で発表することにしたんです。とはいえ内容が内容ですから、投稿する前にNASAにいる米国の友人に見てもらいました。すると、「君の言うことは分かる。だけど、もし万一間違っていたら、選手生命が終わるぞ。あまりリスクを冒さない方がいい」と忠告されました。そこで、私は論文を何度も何度も見直し、結局、書き上げてから投稿するまでに1年を費やしました。

 結果として、「飛行機設計上の重要な発見だ」という非常に高い評価を受け、私の論文はすぐに学会誌に掲載されました。専門家に認められたことで、私は間違っていなかったと、自分の進めてきた開発の方向性に自信が持てるようになったのです。

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