トヨタ自動車で55年間に渡って現場を見続けてきた河合氏。副社長となった今も、本社工場の一角に執務室を構え毎日のように現場に足を運んで技能者と言葉を交わし、手作業や日々の改善にこだわり続ける。自動化やIoT化は道具に過ぎないと喝破し、生産ラインが進歩を続けるために、高い技能の裏付けが必要と説く。(聞き手は中山 力=日経 xTECH/日経ものづくり)

※本記事は、『日経ものづくり』2018年10月号に掲載された記事を再構成・転載したものです。記事中の肩書きや情報は掲載当時のものです。

 私は中学校を出てすぐ、トヨタ技能者養成所(現トヨタ工業学園)に入りました。3年間のカリキュラムのうち、約半分は座学ですが、残りは現場実習。仕事のようなものです。2年生からは本社工場の鍛造部へ来て、基本実習を受けつつ、それを応用した技能を現場で身に付けました。卒業後に配属されたのも鍛造部でした。

 副社長になった今でも、ここ鍛造工場の一角に執務室を構えています。ロッカーも入社以来同じ。朝6時に来て、工場内に昔からある「鍛造風呂」に入って現場へ出向き、風呂に入って帰る。そんな生活が、もう55年になります。

河合 満(かわい・みつる)
1948年1月生まれ。1966年3月、トヨタ技能者養成所(現在のトヨタ工業学園)卒、トヨタ自動車工業(現在のトヨタ自動車)に入社し、本社工場鍛造部に配属される。トヨタ自動車本社工場鍛造部主査、同部長、本社工場副工場長を経て、2013年1月に同社技監、2015年1月に同社専務役員。ユニットセンター Executive Vice President、車両系生産技術・製造本部副本部長も務める。2016年4月に同社工場統括(現職)、2017年4月から同社副社長、安全健康推進部統括を兼任。(写真:早川俊昭)

あえて手作業ラインを導入

 実は私は「自動化とITが大嫌いな河合」で通っているんです。本当はそんなことはないのですが、IT化や自動化が急激に進む中、私が手作業にこだわっているからだと思います。

 私は「技能系が自動機に使われたら終わり」とよくみんなに話しています。技能者は「俺がこの自動機を使っている」という気構えを持つべきなのです。それがなければ、人も機械も進歩がなくなります。

 ITやAI(人工知能)、ロボットなど新しい技術を否定しませんし、どんどん使うべきです。ただし、使いこなして進歩させる、そして自分も進歩するのが大切です。IoT(Internet of Things)やAI、トヨタ生産方式のアンドンやカンバンはしょせん道具です。「道具の方がすごい」となったら終わり。その心を忘れてはいけないというだけの話なのです。

 6年少し前からでしょうか。現場を見渡すとどんどん自動化が進んで、高い技能を発揮するような作業が減ってきたように感じていました。その中、原理原則を知らない、ボタンを押せばモノができると考えてしまう人が増えているのではないか、本当に技能は大丈夫かと思うようになりました。

 その対策の1つとして約6年前から、塗装や機械加工、鍛造といったほとんど全ての工程の一部に手作業生産ラインを設けました。動力を使わず、からくりを活用したラインです。すごくいいラインになっています。

 そこで仕事する人は60歳以上の高齢者が含まれます。高齢者でも確実に作業できるラインをという意味もあるのですが、実は単なる高齢者ではありません。今まで組長だったような人、つまりラインを改善する人の昔の上司です。

 「おまえ、こんなの重くてやれんぞ。軽くしろ」「これじゃ見にくい。見えるようにしろ」「入ったかどうか分からんぞ、確からしさがない」と厳しくも的確な要求が矢のように飛んできます。

 その結果、みんなの知恵と工夫が入ったさまざまな治具やからくりが活躍する、とてもシンプルでいいラインになっていきます。今でも改善が進んでいます。

 自分たちで考え出したラインですから、故障したってすぐに直せます。完成した手作業ラインは全てのラインの基本になります。例えば、TNGA*1のエンジンラインはとてもシンプルでいいラインに仕上がりました。

*1 TNGA Toyota New Global Architectureの略でトヨタ自動車が2012年4月に構想発表し、適用を始めた新しいクルマ造りの設計方針(エンジニアリング・アーキテクチャー)。

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