インフラを観光資源として活用するという考えが主流になりつつある。土木技術者は機能性だけでなく、観光客に見せることも想定したインフラ造りを視野に入れ、設計の考え方を変える必要がありそうだ。国土交通省のインフラツーリズム有識者懇談会の委員を務めるJTB総合研究所の河野まゆ子主席研究員に、インフラ巡りを楽しみながら土木や地域を知ってもらうためのヒントを聞いた。

JTB総合研究所コンサルティング事業部 河野 まゆ子 主席研究員
地域資源を活用した観光戦略作りをサポートしている。2018年11月から、国土交通省の「インフラツーリズム有識者懇談会」の委員を務めている(写真:日経コンストラクション)
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今、インフラを見たいワケ

インフラをツアーで見に行く人が増えているそうですね。いわゆる「土木マニア」だけの趣味だったインフラ見学が、なぜ一般の人にまで広がっているのでしょうか。

 土木構造物を見て楽しむ、という観光スタイルの誕生は、2001年ごろの廃虚ブームや07~08年に流行した「工場萌え」が発端と考えます。人々が寝静まった後、夜通しで稼働し続ける巨大な工場の重厚感や、どこか生きもののような動的な気配、照明の美しさは多くの人を魅了しました。

 その人気は、続々と写真集が売れて、バスツアーが販売されるほど。製品の生産現場にすぎなかった工場やコンビナートに、人の心を動かす観光資源としての新たな価値が生まれました。

 これ以降、観光で訪れる構造物の対象は広がり、インフラにもスポットライトが当たるようになります。日常の生活を支える社会基盤であったインフラに、「見て楽しむ」という活用の視点が加わった代表的な例がダムです。大量の水が流れ落ちる迫力のある放流や、普段は見られない内部の様子を見学できる施設も増えてきました。ダムカードなどのグッズやダムカレーなどのご当地グルメも誕生し、マニア以外の人も足を運ぶ観光地になりました。

国土交通省によると、2019年5月10日の時点で、685カ所のダムでダムカードを配布している。カードの大きさや掲載する情報の項目は、全国で統一している。工事の工程ごとにカードの柄を変えたり、「令和記念」など期間限定のカードを配ったりしているダムもある(資料:国土交通省)
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ダムカレーのキーホルダー。ダムカレーは、主に米をダムの堤体に、ルーを水に見立てたもの(写真:日経コンストラクション)
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ダムカレーは、テレビで特集されていたり、SNS(交流サイト)で写真が投稿されていたりするのを見かけます。

 ニッチで個人的な発見が市場の注目を集め、ニーズとして広く定着する動きが急速になった背景に、SNSの存在があります。SNSを使えば、他の人がまだ行ったことがないような特別な景色を写真や文章で伝えて、自慢できます。投稿を見て珍しさや美しさに興味を持った人が、またその場所を訪れる。

 ダムなどのインフラだけが特別に注目を集めているわけではありません。価値観が多様化し、人が楽しさを見いだすコンテンツの幅が広がっています。御朱印集めや酒蔵巡り、街道探索も、数年前までは一部の人の趣味でしかなかったものです。インフラ巡りは、そういった多岐にわたるコンテンツの1つとして認識されるようになっています。

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