リーダーシップやマネジメント能力を重視する従来型のプロジェクトマネジメント手法だけでは、プロジェクト運営がうまくいかなくなっている。プロジェクトマネジャーには新たに、「ファシリテーション」の能力が求められる。

 中堅製造業の生産管理システム構築プロジェクトを担当する若手プロマネ原川の視点から、ファシリテーションについて解説していく。プロジェクトが佳境を迎え余裕のないメンバー同士がもめ始めた。この状況を原川はどう乗り切るのか。


〈イラスト:串田 千麻〉

 プロジェクトは総合テストに入り山場を迎えていた。これまでは主に各チームで開発を進めてきたが、結合テストの段階で認識の違いや作業漏れが多数判明したのだ。

移行リーダー大山:このままでは移行テストができません。

開発リーダー高野:単体テストは問題ないので、データかデータベースの問題でしょう。

インフラリーダー八木:データベースは開発チームに聞いた通りの仕様で開発しています。

大山:予定通りの性能が出ていないし、移行プログラムもエラーが多発しています。

 原川のプロジェクトでは今、各チームのリーダーが集まり、議論が白熱している。プロジェクトが逼迫し追い込まれてくると、誰もが余裕がなくなって、自分たちの作業をこなすことで精いっぱいになり、もめ事が発生しやすくなる。

 原川は、メンバーの主張を冷静に聞いて、整理することにした。

原川:みなさん、ちょっと待ってください。何が不満なのですか。なぜこうなっているのですか。

八木:障害の多くは設計の誤りで、我々では対処できません。

大山:設計時点でお願いしたユーザーの調整ができていないのです。

高野:ユーザーは調整済みなはず。きちんと確認していないのでは。

 メンバーからは、それぞれの立場や役割に基づく不満や要求が繰り返されるだけ。対立の溝が埋まりそうもない。


隙間は必ず生まれる

 大勢のメンバーが働くプロジェクトでは、必ず役割分担が発生する。

 昨今、プロジェクトは環境が複雑になり、変化のスピードも早くなっている。プロジェクト期間中に要件が変化するうえ、新たな作業も次々と発生する。

 以前よりも作業漏れや考慮漏れが発生しやすい環境となり、役割と役割の間の作業、つまりプロジェクトに隙間が発生しやすくなっているのだ。隙間は隙間風が吹く程度であれば埋められるが、放っておくと亀裂や断崖絶壁にまで広がり、埋めることは困難になる。

 「隙間が大きくなる前に早くメンバー間のもめ事を解消しよう」。メンバー間で問題が発生した際、プロジェクトマネジャーは対処方法をまず考えがちだ。

 一方で、プロジェクトでもめ事が発生しやすいのは、プロジェクトの状況が深刻で危機感が強まったときだ。こうしたタイミングでプロジェクトマネジャーが、感情的に対立しているメンバーの非難合戦に全て耳を傾けるのは現実的でない。

 ではプロジェクトマネジャーはどのように振る舞えばいいのだろうか。リーダーシップを重視するプロジェクトマネジャーであればプロジェクトを進めるために、具体的な指示を下したくなるだろう。

 しかしここでプロジェクトマネジャーが指示を下すとしてもメンバーの不満は解消されず、かえってプロジェクトの生産性を落とす可能性がある。1つひとつ細かく指示を出すとプロジェクトマネジャーの負担も増加する。

 メンバーも繰り返し指示を受けると、「自分が責任を持って仕事をやりとげる」という意識が希薄になってしまう。やがては「指示が出た以外のことはやらない」「進まないのは指示を出さないプロジェクトマネジャーが悪い」といった思考に陥る可能性がある。プロジェクトマネジャーの強硬な指示や、指示の乱発は、メンバーの自律性を損なう危険性があるのだ。

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