今夜も終電か。金曜日の夜、つり革に両手でつかまりながら、大手ITベンダーに勤務するプロジェクトマネジャーの原川は深いため息をついた。原川は35歳。現在、中堅製造業A社の生産管理システム刷新プロジェクトのプロジェクトマネジャーを務めている。プロジェクトは現在、総合テストの直前まで来ていたが、順調ではなかった。

 「インフラリーダーの八木さん、また顧客の追加要望を受けてきてしまったな。追加工数の費用はどうやって捻出しようか」。

 原川は新卒でITベンダーに就職し、SEとして働いてきた。チームリーダーやプロジェクトリーダーの経験が多い一方で、開発経験は少ないため技術力に自信はなく、追加要望についても技術に詳しいメンバーの言うことを信じるしかなかった。

 若手登用の流れを受けて、若くしてプロジェクトマネジャーに就任したのが原川だった。現在のプロジェクトはこれまで先輩だったメンバーも多く、そういったメンバーには指示や依頼のしにくさを感じていた。

 このままプロジェクトは無事終わるのだろうか。原川は妻から送られてきた生まれたばかりの子どもの写真を見ながら、再びため息をついた。

忙しくなるプロマネは限界に

 読者のみなさんも、原川のように終電でため息をつきながら帰宅した経験はないだろうか。プロジェクトの短期化、複雑化が進む今、かつてのようにプロジェクトマネジャーがプロジェクトの全てを把握し、対応するのは難しくなっている。

 要件の変更があった場合、ウオーターフォール型のプロジェクトであれば、要件の再確認、影響範囲の調査、見積もりの変更といったステップを確認しながら踏むことができた。しかし最近のスピードを重視するプロジェクトでは、こうしたステップに十分な時間を割くことができないのが実態だ。

 加えて技術の進化や、社内外の絶え間ない環境変化に迅速に対応することが求められている。全ての問題にプロジェクトマネジャーが対応しようとすれば、問題の処理に時間がかかりプロジェクトが危機的状況に陥ってしまう。それだけでなく、プロジェクトマネジャーの肉体的・精神的負担も大きくなり、その家族にまで影響を与えかねない。

 このように昨今のプロジェクトが置かれる複雑で過酷な環境において、プロジェクトを成功に導くためには、新しいプロジェクト運営の形が求められている。チームやメンバーがそれぞれ方向性や戦略を考え、成功に向けた効果的な動きを自律的に行う。メンバー自身の意思決定に重きを置いたプロジェクト運営である。

 そこでプロジェクトが成功する鍵としてプロジェクトマネジャーに求められるのが、メンバー自身が自律的に行動することを促す「ファシリテーション」だ。

複雑さを増すプロジェクトのプロマネに求められる新たな力
[画像のクリックで拡大表示]

この先は有料会員の登録が必要です。有料会員(月額プラン)は初月無料!

日経 xTECHには有料記事(有料会員向けまたは定期購読者向け)、無料記事(登録会員向け)、フリー記事(誰でも閲覧可能)があります。有料記事でも、登録会員向け配信期間は登録会員への登録が必要な場合があります。有料会員と登録会員に関するFAQはこちら