茨城県常陸太田市北部の高倉地域。県庁所在地水戸市の中心部からクルマで70~80分、常陸太田市中心部からでもクルマで40分程度かかる、60世帯ほどの静かな集落だ。景勝地の竜神大吊橋や袋田の滝に近い。

 この自然豊かな中山間地域で2019年6月23日から7月21日にかけて、自動運転車の走行実験が実施されている。

茨城県常陸太田市北部の高倉地域で実施している自動運転車の実証実験。2020年の実運用を目指す
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 最先端技術を駆使しているわけではないが、2020年の商用化を見越した現実的な取り組みだ。深刻な運転手不足のために路線バスの減便や廃止が相次ぐ過疎地で公共交通を維持する試みのモデルケースにもなり得る。

 運行主体は地域公共交通機関の連合体であるみちのりホールディングス(HD)と、傘下のバス会社である茨城交通だ。集落の外れにある茨城交通の久保田橋バス停から、集落内の狭い公道を通り、高倉地域交流センターを経由して高倉郵便局に至る約1.8キロメートルを走る。

 実験事務局は建設コンサルタント大手の日本工営が務める。同社の現地責任者である交通都市事業部都市交通計画部の田中敦士氏は「高倉地域の高齢化率は55%超に上る。路線バスはあるが、自宅からバス停まで距離がある世帯が多く、バス利用が困難な高齢者が少なくない。自動運転技術を活用して、高齢者の交通手段を確保する狙いがある」と話す。

2020年の商用サービスを目指す「現実解」

 東京電力ホールディングスの事例で触れたように、自動運転バスの運行は発電所構内の私道であっても多くの技術的、法的な課題がある。バス会社が公道で自動運転バスを走らせるとなると、法規制や運転技術、安全確保や運賃収受など、課題はさらに増える。

 実は、みちのりHDは2018年10月に茨城県日立市で、SBドライブらと共同で営業用の小型バス車両を使った自動運転の実証実験をしている。

 みちのりHDの浅井康太ディレクターは「現状では、日立市で実施したような高度な自動運転バス運行は、エンジニアを張り付かせるような特殊な環境でしか実現できない。商用化には今後2~3年かけてじっくり取り組むべきだと判断している。それよりも簡単な技術で、2020年には自動運転バスの有償サービスを始めたい。本気で自動運転の商用化を検討するためのステップが、常陸太田市での実証実験だ」と語る。

 浅井ディレクターは常陸太田市での取り組みを「ロースペックな自動運転」と称する。「世の中で多く実施されている自動運転の実証実験は過剰スペックで商用化が難しい。我々はあくまで商用サービスとして提供可能な自動運転を模索したい」(浅井ディレクター)。

6人乗りの電動ゴルフカートを活用

 こうした考え方は現地の随所に表れている。自動運転車は、ヤマハ発動機製の6人乗りの電動カートを改造したもの。ゴルフ場などでよく見かけるありふれた車両で、整備が容易で扱いやすい。高倉地域は常陸太田市中心部にある茨城交通の拠点から遠く離れているが、わざわざ拠点まで回送しなくても現地で整備できる。

一般的なゴルフ用電動カートに各種センサーやパソコン、無線機器を搭載した
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