契約書が存在しない―。所属タレントによる反社会的勢力のパーティー参加に端を発した一連の吉本騒動は世間を驚かせた。なかでも多くの人が驚いたのは契約に関してだ。吉本興業と所属タレントとの間でマネジメントに関わる契約書を取り交わしていなかったという。

 「今どき契約書もないとは、なんて会社だ」とあきれた人もいると思うが、IT関係者なら吉本騒動を笑えない。最近はあまり聞かなくなったとはいえ、以前はユーザー企業とITベンダーが契約書を作成しないでシステム開発に着手するケースが結構あった。

 例えば「情報システム・ソフトウェア取引トラブル事例集」と題する経済産業省委託事業の報告書の序文に、次のような一文がある。「依然として、システム開発に際して契約書を締結していない事例や、曖昧な契約を締結している事例が多く、その結果紛争が生じ、ユーザ・ベンダの両者にとって大きな負担となっている」。

 報告書が公表されたのは2010年3月。わずか9年前だ。この報告書をまとめた情報システム・ソフトウェア取引高度化コンソーシアムには、日本情報システム・ユーザー協会や電子情報技術産業協会、情報サービス産業協会などユーザー企業やIT業界の団体が参加していた。つまりユーザー側、ITベンダー側とも「契約書なきシステム開発」の横行を認識していたわけだ。

欧米流の厳密な契約が必要

 2010年以降、コンプライアンス重視の意識が企業に浸透し、システム開発プロジェクトの失敗を巡りユーザー企業とITベンダーとの間で訴訟が多発したこともあって、契約書なきシステム開発は影をひそめた。ただ根絶できたかというと、はなはだ疑問だ。

 契約書を作成しないで開発に着手してしまうのは、ユーザー企業がシステムの要件を固めきれないからだ。開発期間は限られているので、ITベンダーが正式な契約を待たず「自主的に」プロジェクトをスタートさせる。先行着手やフライングオペレーションと呼ばれる行為だ。

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