場所の記憶を未来につなげる――。10年がかりで完成した「エストニア国立博物館」(2016年)の設計で、田根剛氏が手応えを得たアプローチ法だ。「Archaeology of the Future(未来の記憶)」と題し、2018年に東京で2館同時に開催した個展は、予想以上の反響を呼んだ。令和元年に40歳を迎える田根氏に、新時代への意気込みを聞いた。

Atelier Tsuyoshi Tane Architects(アトリエ・ツヨシ・タネ・アーキテクツ)代表で、建築家の田根剛氏(写真:山田 愼二)
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東京オペラシティ アートギャラリーとTOTOギャラリー・間の同時開催で話題を呼んだ2018年の個展の終了後、心境や活動に何か変化はありましたか。

 驚いたのは、予想以上に大きな反響があったことです。展覧会を見て「建築の意義を見いだすことができた」と、身に余るくらいのプロジェクトの話を続々と頂いた。「こんな依頼が来てしまうんだ……」と、驚きもありますが、より頑張らなければいけないなと気持ちを新たにしています。

 日本は現在、ある種の飽和状態で、行き詰まり感があります。だから、人々が無意識に、これまでの延長ではない「何か」を求めています。それが想定内には収まらない僕らの世代に対する期待となって表れているのではないでしょうか。僕たちが描く未来に可能性を感じてくれている。その期待を背負って、今の時代に立ち向かっていかなければならないと思っています。

2018年10月18日~12月23日にTOTOギャラリー・間で開催した田根氏の個展「田根 剛 | 未来の記憶 Archaeology of the Future ― Search & Research」の会場風景(写真:ナカサアンドパートナーズ)
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田根さんは、大学で北欧に留学して以来、欧州を拠点にこれまで活動しています。令和の新時代に入った日本の建築や都市環境をどのように見ていますか。

 歴史の大きな流れで見ると、20世紀という成長時代の建築から、「変動し続ける地球と建築」へと、テーマが変わってきていると思います。

 20世紀は、産業や技術の急速な発展の中で、新しいものが価値を持つという、それまでにない概念が生まれました。新しさが生活や社会を変え、未知なるものが世界を切り開いていくという価値観によって、便利さや快適さを得ました。でも新しいものは、次の新しいものによって古び、消費の波にのみ込まれていきました。

 発展や成長を支えてきたのが、化石燃料などの膨大なエネルギー消費。いわゆるモダニズム(近代主義)というよりは、モダニティー(近代性)によって複合的に生まれた問題が今、僕たちの生活に降り掛かっています。例えば、地球温暖化もその1つです。

 21世紀に入り、変動し続ける地球の様子が、宇宙工学や地質学、ITなどの進歩により、分かってきました。地表面の温度上昇やエネルギー循環もシミュレーションで可視化できるようになった。地質学者によると、人類がつくった新しい「人工地層=人新世(じんしんせい)」が出来上がっている。コンクリートやアスファルトなどの化石燃料で地層を覆ったことで、熱の放出量が飛躍的に上がり、改めて地球は回転し、エネルギーの動的循環によってバランスを取っていることに気付き始めた時代です。

建築は記憶を保有できる

 その状況で建築のあるべき姿を考えてみると、もはや新しさうんぬんではない。より遠い未来を見据えて建築を受け継いでいくことが重要です。より長い時代や文化を超えて継承されていくもの、語り継がれていくものを目指したい。建築は記憶を保有することができる。それが建築の大きな意義だと思います。

 記憶を持ち続けている建築は、経済や法律などの制約を超えて、設計者や建て主以外の人が関わりながら、残ることができる。建築が存在し続けることによって、記憶装置のように、未来まで価値を生み出し続けている事例は世界中に数多くあります。

 もう1つ重要なのは、人が集まる場所性をつくること。場所と記憶がある建築は強いと思っています。

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