本記事は、日経エレクトロニクスの過去記事「GTOからIGBT、そしてSiCへパワーデバイスが新幹線を進化させる」からSiCに関する内容を抜粋して再掲載したものです。社名や肩書きは執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。元記事はこちら

 本稿では、SiC採用によってもたらされる利点を中心に、次世代新幹線「N700S」の開発を主導したJR東海の上野雅之氏に解説してもらう。なお本稿は、2016年11月開催の「パワーエレクトロニクス・サミット2016」における上野氏の講演「東海道新幹線における技術開発─SiC採用の駆動システムを搭載したN700Sの開発について」の内容を基にしている。(本誌)

 新幹線の進化をパワーデバイスがどのようにして支えてきたのか、そして現行のIGBTから次世代のSiCパワーデバイスに置き換えることで、次世代新幹線「N700S」がどのような特徴を実現できるようになるのか解説する。

コンバーターとインバーターを一体

 簡単に新幹線の駆動システムについておさらいする。新幹線の架線は、2万5000Vの単相交流である。新幹線1編成(16両)では、2万5000V・1000Aを上限とし、パンタグラフで集電し、トランスで電圧を下げる。これをコンバーターで直流に変え、インバーターで三相交流を作ってモーターを駆動する(図1)。この構造で基本的に4個の誘導モーターを動かす。300系からは回生ブレーキを導入。ブレーキを掛けるとインバーターからコンバーターに電流が流れ、三相交流から直流ステージを経て単相交流として架線に返っていくシステムとなる。

図1 CIを小型軽量化し、新幹線の性能を高める
新幹線を駆動する主回路システムでは、300系以降、コンバーターとインバーターを一体化し、「主変換装置(CI)」として利用している。このCIを小型軽量化することで、新幹線の性能を向上させている。
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 こうした一連の駆動システムを「主回路システム」と呼ぶ。同システムで中核を成すのが、コンバーターとインバーターである。鉄道業界では、コンバーターとインバーターをセットにして「主変換装置」と呼ぶ。あるいは、コンバーター(Converter)の頭文字のCと、インバーター(Inverter)の頭文字のIを取り、「CI」と呼称する。

 コンバーターとインバーターは、当初は別々の装置として作られていた。しかし、小型軽量化するには、一体化した方がいいということになり、300系から実行し、このときからCIと呼ぶことになった。このCIを小型軽量化することで、300系から700系、N700、N700Aと新幹線の車種が変わるごとに高速化してきた。CIの小型軽量化を支えたのがパワーデバイスである。

 300系のCIにはGTO(Gate Turn-Off thyristor)を採用した。これにより回生ブレーキを導入できた。だが、GTOは発熱量が大きい。これを冷却するために、「どぶ漬け」と呼ぶ冷却方法を使った。「パーフオロカーボン」の冷却液の中に“ドボン”とGTOを入れた上、冷却液を搭載した部分を大きなブロアーで冷やす。

高いスイッチング周波数が利点のIGBT

 300系以降、しばらくGTOを使い続けてきたが、1999年に営業運転を始めた700系からIGBTを使うようになった。IGBTの魅力は、高いスイッチング周波数で動作させられることである(表1)。GTOでは420Hzでスイッチングしていたが、IGBTでは1.5kHzに高められる。スイッチング周波数を高めることで、大きく2つの利点がある。1つは、騒音を低減できること。GTOのスイッチング周波数は、人間が耳障りだと感じる帯域なので、周波数を高めて車内騒音を抑えられる。

表1 300系と700系、N700系のパワーデバイス関連の比較
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 スイッチング周波数を高めることで得られるもう1つの利点は、効率の向上である。同周波数が高いほど、CIを駆動する信号をより正弦波に近づけられるので電力変換効率が高まる。

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