経済産業省のDXレポートでは、「2025年の崖」の一因として、欧州SAPのERP(統合基幹業務システム)製品である「SAP ERP」のサポート終了を挙げている。SAPは後継製品である「SAP S/4HANA」への移行を推奨するが、製品のサポート切れという理由だけで問題なく動いているシステムを刷新するのは難しいという声もユーザーからは聞かれる。SAP S/4HANAに移行するメリットは何か、SAPジャパンはどう移行を促していくのか、DXをどう支援していくのか。気になる点を福田譲社長に聞いた。(聞き手は日経BP総研フェロー、桔梗原 富夫)

福田 譲(ふくだ・ゆずる)氏
1997年4月、SAPジャパンに入社。プロセス製造業の大手顧客を担当し、ERP導入による業務改革(BPR)などを担当。2002年4月以降、素材・エネルギー業界担当、流通業界担当、中堅企業担当の営業を歴任。2007年、新規事業を統括するバイスプレジデントに就任。2011年から、特定戦略顧客、流通・サービス業、通信・メディア業、プロセス製造業等の営業部門を担当。2014年7月から現職。(写真:陶山 勉)
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デジタルトランスフォーメーション(DX)の必要性が叫ばれていますが、言葉の定義が曖昧なまま独り歩きしているように思います。福田社長はどう捉えていますか。

 DXは「トランスフォーメーション」ということですから明快だと思っています。よく例えとして話すのですが、写真を撮って遠方の人に送るとしましょう。以前でしたら、カメラで撮って、フィルムを暗室で現像し、封筒に入れて郵送していました。それが今は、スマホで撮ってインターネットで即座に送信できる。つまりデジタルによって、プロセスそのものが大きく変わりました。DXというのはITによる業務の効率化や改善ではありません。デジタルによって非連続の進化が起こるということです。

日本企業はDXへの取り組みが遅れているといわれています。なぜでしょうか。

 「なぜ」の前に私は危機感を持っています。AI(人工知能)をはじめ先進のデジタル技術を使いこなせないというのは、鉄砲が伝来したときに刀やヤリで対抗していたようなものです。日本の歴史を振り返ると戦い方の大きな転機が3回ありました。鉄砲伝来の次は、黒船が襲来し大砲に負けた。結果として明治維新につながったのはよかったですが。その次は太平洋戦争の末期で、日本は従来の巨艦大砲主義に固執し、戦い方の変化に対応できず痛い目を見ました。

 今、ビジネスの世界で起こっていることは、同じくらいのマグニチュードの話だと思います。戦略の在り方、人のスキルセットなど、いろいろなことがDX時代にはガラリと変わります。

 ただ、一方でDXについてあおりすぎの面もあります。ガートナーのハイプ・サイクル(ハイプ曲線)になぞらえると「過度な期待のピーク期」ではないでしょうか。これからいったん「幻滅期」を迎え、健全な理解が進み、取り組みが本格化する。早い企業は“DXごっこ”で失敗を経験し、本質的にどうするんだという段階に入っていると思います。

 日本は新しいことに対して、常に出遅れます。そしてこのままではまずいとなると、一気に挽回する。競馬で言えば、スタート後は馬群の後ろにいて、3コーナー、4コーナーからまくっていく感じです。日本企業はひとたびエンジンがかかると強いので、そんなに焦る必要はないのですが、そろそろギアを上げないとまずいでしょう。

 デジタル化が進み「コネクテッド(結合)」が起きた業界は、日本がことごとくディスラプト(破壊)されてしまいました。家電しかり、パソコンしかり、携帯電話しかりです。ユーザーエクスペリエンス(ユーザー体験)の変化やサービス化の波に乗れず、せっかく良い製品技術があっても負けてしまった。残った本丸が産業機械と自動車だと思いますが、ここは勝たなければなりません。

経済産業省の「DXレポート」では、DXを推進するうえでレガシー化した既存システムの刷新が課題になるとして指摘しています。

 ITの役割が従来はビジネスを支える「守り」でした。基幹システムがまさにその代表でSoR(Systems of Record)が中心です。今、他社と差別化して勝っていくためにはデータを戦略的に活用するSoE(Systems of Engagement)のシステムが重要になっています。家に例えると、基幹システムが1階部分、SoEのシステムが2階に相当します。昔はほとんどが平屋建てでした。それが変わって2階が主流になったわけですけど、1階がグラグラしていたら2階は建ちません。

 フロントでいくら情報を活用するサービスを考えたとしても、バックの在庫情報とつながっていなかったら意味がありません。私がよく行くスーパーマーケットで、2年くらい前からパーソナライズされたクーポンがレシートの裏面に印刷されるようになりました。それをもらって喜んで再入店してクーポンの商品を買おうと思ったら、すでに在庫がなくなっていたことがありました。在庫の情報とクーポン発行のシステムが連携できていないわけです。せっかく行動特性を分析してクーポンを発行しているのに、こうなるとむしろ逆効果でカスタマーロイヤルティーを低下させてしまいます。1階のSoRシステムがしっかりしていないために、2階のSoEが機能しない例です。

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