SIerは顧客の要望に対して忠実に応えることが満足度の向上につながると信じ、独自のシステムをつくってきた。それが「2025年の崖」のリスクを招いた原因の1つになっている――。長年SI部門を統括し3月にキヤノンITソリューションズ(キヤノンITS)の社長に就任した金澤明氏はこう話す。崖を回避するためには、レガシーシステムの整理、SoR(Systems of Record)の維持とSoE(Systems of Engagement)のエンハンス、そしてデジタルトランスフォーメーション(DX)という3段階で推進すべきだという。(聞き手は日経BP総研フェロー、桔梗原 富夫)

3月に社長に就任され、ここまでを振り返っていかがですか。

 社長就任前はSI部門をずっと見ていました。社長になって社内の他部門の現場を見に行ったり、じっくり話を聞いたりしていくと、改めて技術的に世の中で十分通用するものがたくさんあると思いました。例えば、キヤノンの製品開発で培ったエンベデッド領域はかなりの技術力がある。ただ、それらが十分にビジネスに結び付いているかというと、できていないところがあります。一方で、弱みも分かってきたので、それを踏まえて中期経営計画を立てていきたいと考えています。

金澤 明(かなざわ・あきら)氏
1982年宇都宮大学工学部卒業。92年住友金属システム開発(現キヤノンITソリューションズ)入社。2009年金融第一事業本部金融第一開発センター第二プロジェクト長、15年執行役員SIサービス事業本部開発統括センター長、17年3月取締役、同年4月キヤノンマーケティングジャパン執行役員(現在)、18年1月SIサービス事業統括担当兼SIサービス事業部長、同年4月常務執行役員、19年3月より現職。(写真:陶山 勉)
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 業績面では、2019年1~6月期はとても好調です。ただし、同業他社も総じて業績が良いので、単に市場の波に乗っているだけかもしれません。そこはきちんと分析する必要がある。キヤノンITSはリーマン・ショックを受けて業績が悪化した後、いろいろな構造改革に取り組み、筋肉質に変えました。そして昨年からは第2の創業を標榜しているのですが、良いスタートを切れました。これからが勝負なので、気を引き締めてやっていきます。

金澤社長はSEの経験もあり、ずっとSI部門を担当してこられました。その目から経済産業省のDXレポートについてはどう見ていますか。

 日本企業がこの先、グローバルで戦っていくためにDXは必須です。そのときにレガシーシステムが大きなリスクになるというのはその通りです。レガシーシステムのブラックボックス化の責任の一端はSIerにもあり、反省しなければなりません。

そのような状況が生まれた原因はどこにあるのですか。

 SIerはお客様から「これもやってほしい」「あれもやってほしい」と言われると、ついつい応えてしまいがちです。「うちは特別だから標準的なやり方では無理なのです」と言われると、「では頑張って作ります」と対応してしまう。お客様の要望を聞き、それに対して忠実に、堅牢(けんろう)なシステムを構築することを重視してきました。その結果、パッケージ製品導入でさえ多くのアドオンが発生し、2025年の崖のリスクを招いてしまった。

 お客様の要望をよく聞くというのは、日本企業の文化かもしれません。美点でもあるのですが、お客様にとって本当にためになるのかまでは考えずに、要望に応えれば顧客満足度の向上につながるだろうと、良かれと思って作り込んでしまう。しかもそのドキュメントが残っていなかったりします。

 私が実際に関わってきたプロジェクトでも、システムを再構築したいとか、会社が合併したのでシステムを統合したいといったケースが結構ありました。そのときに問題になるのは、既存のドキュメントが信用できないということなのです。最初はきちんとドキュメントに残っていたのが、プログラムを改修していくうちに、どのような処理をしているのか、業務的にはどうなっているのかまで記述しなくなってしまうというのはよくあります。

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