工作機械産業の盛衰史から得られる重要な示唆の1つは、産業の黎明(れいめい)期における分業形態が予想もしなかった結果をもたらしたということだろう。本コラムでこれまで述べてきたように、CNC(コンピューター数値制御)装置は工作機械の補完財であり、この補完財の開発を巡って日米間で開発の主体が異なっていた。これは補完財の開発において必ず直面する課題である。

 同様の課題に直面しているのが、激変期を迎えている自動車産業だ。自動運転装置は自動車本体の補完財であるから、誰が開発の主導権を握るのかという問題が出てくる。そこで今回は、工作機械産業の歴史から得られる知見に照らして、自動車産業の主戦場の1つである自動運転開発競争の潮流を先読みしてみたい。

(出所:PIXTA)

自動運転装置はクルマ本体の「補完財」

 自動運転は、クルマの走行環境をセンサーなどで俊敏に察知した上で、それらの情報に基づいてクルマを自動で制御する。それによって安全性や操作性、快適性などを高めて、クルマの価値を大幅に引き上げることが狙いである。この技術を巡って、トヨタ自動車をはじめとする完成車メーカーはいうまでもなく、米グーグル(Google)や米ウーバー・テクノロジーズ(Uber Technologies)などのIT企業も異業種から参入し、激しい開発競争を繰り広げている。

 自動運転では、外部の様々な状況をセンシングして歩行者やクルマの状況を認識し、それに基づいてクルマの適応行動を判断する。そして、駆動系に操舵や加減速といった制御指示を出すという一連の動作を高速で繰り返す。

 従って、センシング、認識、判断という一連の動作を実行する自動運転装置とクルマ本体の間で、正確かつ高速に信号をやり取りするためのインターフェースが必要となる。言い換えると、自動運転システムは大きくクルマ本体および自動運転装置という2つのユニットで構成され、制御信号がこれらユニット間を高速に行き交うことで自動走行を実現するのである。

 自動制御の水準に応じて、簡易支援のレベル1から完全自動運転のレベル5までが存在するが、システムの基本構造は変わらない。その意味で自動運転装置とは、クルマ本体に付加されて、自動制御機能を提供することでクルマ本体の価値を一層高める補完財といえる。

 自動運転装置の主導権争いには、2つのシナリオが考えられる。1つは、トヨタのような完成車メーカーが主導権を握るというシナリオ。もう1つは、自らはクルマを造らないが、自動運転装置を開発して複数の完成車メーカーに提供する専業メーカーが主導権を握るというシナリオである。画像認識技術を応用して自動運転に参入しようとするグーグルは、後者のタイプに相当する。この場合、完成車メーカーと専業メーカーは、自動運転装置で目指す設計戦略について、それぞれ異なる合理性と動機付けを持つことになる。

 完成車メーカーは、自社のクルマの価値を最大化するために、各社ごとに最適設計した自動運転装置を開発する動機を強く持つ。特に強い競争力を持つ完成車メーカーほど、それが自然な戦略だろう。その場合、高い性能やきめ細かな機能を提供できるが、転用性は劣る。さらに、最適化のために、自動運転装置とクルマ本体のインターフェースを独自化しようとする傾向が強まる。

 一方、専業メーカーは、特定の自動車メーカーや車種に最適設計した特注品を作るよりも、多くの自動車メーカーに共通の自動運転装置を提供したいという動機を強く持つ。従って、できるだけ標準的で転用性が高い自動運転装置を開発しようとする。そのような自動運転装置は、個々の自動車メーカーや車種に最適化しているわけではないので、当初の性能や機能は、自動車メーカー各社が自社向けに最適化した自動運転装置よりも見劣りし、クルマの価値を引き上げるという点で不利に思える。しかし、多様な車種への転用性に優れ、自動運転装置とクルマ本体のインターフェースを共通化しようとする動機も働く。

「共進化サイクル」を形成せよ

 果たして日本の自動車産業はどちらのシナリオを選択すべきか、重要な課題になる。本コラムの読者は恐らく気が付くだろうが、これは1970年代に工作機械産業がCNC装置の開発で直面した課題と極めて似ている。クルマを自動制御する自動運転装置と、工作機械を自動制御するCNC装置。産業こそ違うものの、機械本体に付加されてその価値を高める補完財という点は全く同じである。

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