台頭しつつある新技術への評価は、企業の命運を分けることもある。米インテル(Intel)のMPUに関して、採用に積極的だった日本の工作機械産業は躍進を果たし、否定的だった米国の工作機械産業は没落していったことを前回紹介した。

顧客の声に耳を傾けたのに…

 では、なぜ日米でMPUに対する評価の差異が生まれたのだろうか。これが工作機械産業で起こった逆転劇を根本的に理解するためのカギとなる。結論からいえば、それは両者の顧客層の違いに由来している。

(出所:PIXTA)

 米マサチューセッツ工科大学(MIT)を中心とする米国産業生産性調査委員会が1989年に発表した調査リポート「Made In America」は、その顧客層の違いについて以下のような趣旨で説明している。「米国では複雑なNC(数値制御)工作機械を主に自動車産業や航空機産業の巨大企業に採用していたが、日本でこの新技術を使用したのは主に中小企業だった」。

 当時の米国において、NC工作機械の主要ユーザーである航空機産業や自動車産業の巨大企業は、加工が難しい複雑形状部品を切削するために、高い切削性能と切削精度を要求していた。ところが、工作機械の頭脳ともいうべきNCにMPUを採用することは、切削性能や切削精度の低下を招きかねなかった。現在からは想像しにくいが、当時はMPUが誕生したばかりで、性能も機能も現代の高度な水準に達していなかったからだ。

 航空機産業や自動車産業の巨大企業は、何よりも切削性能と切削精度を重視しており、その低下を許さない。それ故、工作機械メーカーはMPUの採用に積極的になれなかった。

 一方、日本においてNC工作機械の主要ユーザーである中小企業は、切削性能や切削精度以上に、設置スペースやコスト、柔軟性を重視した。これらはMPUの採用によって改善が見込めるものである。従って、MPUの採用は顧客である中小企業にニーズにかなっていた。

 つまり、日米の工作機械メーカーは、いずれも顧客の要望に応えるという“理にかなった”経営判断を下していたのである。そして、その結果として、MPUへの評価に差異が生まれ、その後の盛衰が分かれたのだ。

 裏を返せば、日本の工作機械産業が躍進したからといって、日本企業の戦略が米国企業よりも優れていたとは言い切れない。顧客重視という点では日米は同じだったが、顧客層の違いからMPUへの評価が分かれただけともいえる。

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