生き物に近い複雑さを持つ「実都市」へのAI(人工知能)の応用には、どんな可能性と課題があるのか。ゲームAI開発の第一人者である三宅陽一郎氏は、最先端の開発現場からの実感で、都市の未来像を語る。建築家の豊田啓介氏と共に、スマートシティーの在り方を探る「ゲームAI」の最終回。(進行は神吉 弘邦=ライター、山本 恵久=日経 xTECH/日経アーキテクチュア編集委員)

ゲームAI開発者の三宅陽一郎氏(左)と、noiz共同主宰、gluon共同主宰で建築家の豊田啓介氏(右)。両氏のプロフィルは最終ページを参照(写真:日経 xTECH)
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ゲームの製作方法の発展に伴い、AI(人工知能)の開発にも新しい展開が起こっているのでしょうか?

三宅 そうですね。ゲーム業界は、あるクローズドなプラットフォームを前提にものをつくるという考え方に慣れ過ぎていました。オープンな世界で展開する方向に、最近ようやく転換しつつあるんです。そういった中で、AIのつくり方も徐々に変わってきています。

 1990年代の第2次ブームまでは、人の手でAIをつくっていました。第3次ブームの現在は、ネット空間にたまっているデータを母体にしてラーニング(機械学習、深層学習)でつくろうとしている。「棋譜がたまってきたから強い将棋ソフトAIができた」とか。

リアル都市に計算させる「フィジカルコンピューティング」

三宅 スマートシティーというのは簡単に言うと、個人のライフログ(注1)を全部取ることができてしまう世界です。人間の全ての情報が街に蓄積されると、そこから「私そのもの」のAIをつくることが可能になる。どこで何を考えたとか、どこで何を買ったとかいった情報を全部取れるわけですから。

 第3次ブームの次の世代では、そうしたライフログからAIがつくられることになると思います。今は限定された領域のデータしかありませんが、スマートシティーが発展すると「オールライフログ」からAIをつくる時代が本当にやってきます。

 すると、僕自身は「肉体的な自分」であると同時に、すぐそこにいつも「デジタルのアバターとしての自分」もいる状態になる。そのときに、アバターに自分を映し出すものは、AIの技術なんですよ。自分が残したライフログから分析された自分の分身、つまり肉体を持たないキャラクターとしての自分が、そこに生まれるんです。

 例えば、誰かと会うとき、自分の横にも相手の横にも、アバターであるAIがいる。すると、そのAI同士で情報交換するとか、会話するとかが起こり始めるわけです。

豊田 我々の社会の構成要因が人に限られているという、今の常識を超えた状況になりますよね。「人以外」の多様なエージェントといかに共存するかという感覚で社会をつくっていくことが、これから必須になってくるはずです。

三宅 そのAIは、スマートシティーの中に存在する限りはずっと成長していき、今のAIが突破できない様々な問題を、力業ながらも解決していけるようになると思っています。

 今はまだ、 人間のある限定された側面のデータだけを取ってきて特化型のAIを育てている状況ですから、人間の能力をいびつな形で受け継いだAIしかできません。囲碁は人間よりも強いのに漢字は読めないとか、ナビゲーションはすごく速いのに自分では移動できないとか、そんな感じです。

 そういう万全ではないAIたちが周りにたくさんいることをみんなうすうすと気づいてきたので、「我々にどう役に立つんだろう?」「人間と似て非なるもので、ちょっと怖い」などという目で見ている。

 ライフログからつくられたAIはそうしたいびつなものではなく、本当に我々とよく似たものになる。それがスマートシティーの中に生まれ始めます。そうしたら人間が寝ている夜中の間は、AIたちがスマートシティーで暮らしたり働いたりしてくれてもいいわけですよ。

豊田 そのAIは、我々のアバターだけに限る必要はない。

三宅 NPC(Non Player Character、人間ではないゲーム内のキャラクター)として使うこともできるし、何らかのシミュレーションデータとして使うこともできる。もっと言うなら、デジタル空間の方では、むしろ人間の実態を映したものではないNPCたちがサービスを展開するようになっていくのかもしれない。

豊田 前回の西田先生とのお話でも鍵になったのですが、そうなると「身体性」とか「物質性」という視点が、より重要になってくる気がします。結局、今のいびつなAIが直面しているハードルは、身体性とか触覚とか、いろいろな物理的な制約じゃないですか。今のAIは、ひも付いている現実環境に対して十分なインタラクションができるような「身体」を持っていませんからね。

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 フィジカルコンピューティング(注2)が話題になっているじゃないですか。こんにゃくをねじったときにできる形の計算というのをコンピューターにやらせたらとんでもない計算量になるのに、モノとしてのこんにゃくをねじれば、そこに結果はある。だったら、モノ自体やそれに準じたモデルにある程度の計算をさせてしまうという考え方です。

 都市も同じだと思うんです。あまりに複雑すぎるので、どれだけコンピューターが進歩しようと、全部を1対1で定義して計算するのは原理的に無理です。現実には扱い切れない情報量を持つのだから、こんにゃくと同じように都市自体に何かしらの計算をさせて、必要な情報だけ抽出するという発想に転換する必要がある。そこがスマートシティーという領域の難しさだと思いますが、こちら側が大きな価値転換をしないといけない。そういう意味で、とても大きなチャレンジなんだと感じています。

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