都市開発とゲームの融合は理想的なスマートシティーを実現するための打開策と、建築家の豊田啓介氏は主張する。エンターテインメント産業で培われた知見は、スマートシティーの開発で見失われがちな「豊かさ」に対する問い掛けを含むと見ている。ゲームAI開発の第一人者、三宅陽一郎氏を相手に豊田氏が斬り込む。(進行は神吉 弘邦=ライター、山本 恵久=日経 xTECH/日経アーキテクチュア編集委員)

ゲームAI開発者の三宅陽一郎氏(左)と、noiz共同主宰、gluon共同主宰で建築家の豊田啓介氏(右)。両氏のプロフィルは最終ページを参照(写真:日経 xTECH)
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第2回[上編]ゲームAI開発者・三宅陽一郎氏と近未来のスマート都市像を議論

国内外でスマートシティーの話題を耳にします。三宅さんが関心を持っている動きはありますか?

三宅 米グーグル(Google)や米フェイスブック(Facebook)といった、グローバルなIT企業が今目指しているところを見ると、「街」というのが次のビジネス単位として扱われつつありますね。

豊田 それは間違いないです。都市を丸ごと「獲り(とり)」にきていると感じます。

三宅 「IT競争」と言われていたものが、もう都市のスケールに移っている。ネット上で完結させずに、実世界とデジタル世界をオーバーラップさせているのが特徴です。

豊田 都市をプラットフォームにして両者をどう接続させるかが、これからのビジネスの鍵なんですよね。

三宅 彼らはAIの弱点をよく知っています。豊田さんが先ほど(上編で)おっしゃった通り、AIが最も苦手とするのは「現実の把握」なんです。そこでフィジカルな世界とデジタルセンシングされた世界をオーバーラップさせ、ナビゲーションしていこうとしている。それは、グーグルがここ20年やってきた「とりあえず世界をスキャニングする」というところから始まっています。

 それが今、街というパッケージに下りてきたわけですね。自動運転もその一環だし、IoT(モノのインターネット)もそうです。クルマと人の流れ、それから物流、あとは建築を掌握すれば、街の全てのインフラを自分のものにできるという考え方です。ただ、現実の街は雑多すぎるので、それらをデジタルで扱おうとしても、まだうまくいかないような気がします。

豊田 都市はそれ自体が圧倒的な複雑系なので、少なくとも今の技術で扱おうとしても、とても実効的なものにはならないでしょうね。現時点では雑多なまま扱うのはもちろん、個別に分解してシミュレートしようとしても、そのために必要なパラメーター(変数)を取得できるような状況すら、ほとんど実現しようがない。

リアル世界を“獲り”にきた「テックジャイアント」の限界

豊田 そんな限界が分かっていても、グーグルは今も世界中のスキャンを進めているわけです。

 彼らのグーグルアース(Google Earth)はスキャンの精度がとても低いので、スマートシティーの基盤にしようとしても実効性を持ちません。それに対象は屋外だけで、屋内のデータはないに等しい。仮に屋内のデータをスキャンしても、そこに属性を持たせない限り、どれが机で、どれが壁なのか、その程度の区別すら現状ではできません。

 といっても、より表現はシンプルながらAR(拡張現実)によって実世界とデジタル世界を重ね合わせたゲーム「ポケモンGO(ゴー)」の爆発的なヒットを見る限り、この分野にはポテンシャルがある。もし十分な精度と構造を持ってデジタル記述された世界というのを獲得できたら、新大陸の発見どころの騒ぎではない気がしています。

バーチャルシンガポール(注1)のように、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)データと連携させて都市のデジタルツインをつくろうとする動きもあります。

豊田 建築・建設業界が持っているBIMデータは、ジオメトリーの表記や客観的な構造の表記という点では優位性を持っています。どこまでが床で、どの線から先が壁なのかといった区別ができ、壁や窓、ガラスといった属性データも備えている。多重な情報の記述には、通常のスキャンで生成される点群データよりも圧倒的に効率がいい。

 グーグルがこれから10年ひたすらスキャンを続けても、BIMデータに比するものは取りようがない。複合的な物理世界のデータを持っているという意味では、むしろ僕らのいる都市や建築に関わる業域の方に、すごく優位性があるんです。

 一方でBIMデータは重過ぎるし、建物に似て硬すぎる。これを軽いものにしたり、状況の変化にリアルタイムに対応する柔らかいものにしたり、さらにそれらを統合して扱ったりできるようにするのが、現在のデジタルゲームの開発ツール群である「ゲームエンジン」だと思います。

三宅 製作過程のツールとして、ゲームエンジンのリアルタイム性を使うのは良い方向だと思います。実際、自動車産業や映画産業では応用されています。建築産業でも実例が増えています。

豊田 現実の都市空間をリアルタイムに記述するというのは、並大抵のことではありません。実際には明確な境界を持ち、エリアとして管理できる再開発地区や、利用目的がはっきりした単一施設などに限定してスタートするしかないと思います。さらに、エネルギーでもいいですし、防災でもいいですし、ある程度は制御できると分かっているレイヤーから着手し、徐々に複合度やスケールを上げていく発想が不可欠です。

 民間の方が動きが速いはずですから、単一の大規模マンションやオフィス、リゾート施設のようなところからサービスの実装が広がるイメージです。もしくは課題や喫緊のニーズが顕在化している地方の過疎地域などを対象にする手もある。段階的な実装を重ねてノウハウを蓄積していくという意味で、いいモデルケースになり得ます。

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