都市にまつわる諸機能や諸事象が、デジタルで記述される時代になっている。建築、ものづくり、ITそれぞれの分野が、そのプラットフォームづくりのために協働し、現在いわれるスマートシティーの次世代版として魅力的な都市を構想する必要がある。その新たな姿を模索しながら、2025年大阪・関西万博の会場計画に実装すべく奮闘中の建築家、豊田啓介氏と共に、各界の実践者や識者を訪ねるシリーズ企画を開始する。

今日は、人工知能の研究者である西田豊明教授をお迎えしましたが、連載初回なので、まずは豊田さんがどんな問題意識を持って各界の識者を訪ねようとしているのか。そこから、ぜひ。

豊田啓介 日々の実務で建築をデジタルデータとして扱って設計していると、成果物のアウトプットが「建築構造物」で、しかも「静的なもの」にとどまる必然性を感じなくなってくるんですね。建築の周りには、交通にせよ、物流にせよ、あるいは自然環境を含めてフローしている様々な動的な情報があるわけです。それらの大半は時々刻々変わる、しかも高次元なデジタルデータとしてしか記述し得ないダイナミックなものです。ですから、今のように建築条件をインプットし、その解答として静的で限定的な建築空間だけをアウトプットするという僕らの設計行為というのは、目の前にある都市的、総体的なデジタル環境を全然生かせていないな、と。

 これまでは別々の領域だと思っていた「情報」と「物質」の境界が曖昧になっていく状況が概念でなく、リアルに実務の中で出てきているんです。だから建築の周りにある情報までデジタルで等価に扱って、例えば、インプットした建築の情報からのアウトプットが音でもいいし、スポーツシューズの分子構造でもいいし、関係性の記述でもいい。それらを製品なり、商品・サービスなりに生かせないか、と。いまや建築の枠を飛び越えてしまうような、そういう実務の要請があって僕らの常識の殻を引き剥がしていく、そんな状況です。

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京都大学大学院情報学研究科教授の西田豊明氏(左)と、noizパートナー、gluon共同主宰の豊田啓介氏(右)。両氏のプロフィルは最終ページを参照(写真:日経 xTECH)

西田豊明 そんなふうに考えながらお仕事をされてきたんですね!問題意識の重なりの大きさにびっくりしました。

豊田 それらの情報が一応「建築的な」構造を持っていて、だから僕たち建築家が扱うことに価値がある。ただ、この高次の情報の総体をどうデザインしたらいいか。そのノウハウと知識を、大組織や大企業を含め、まだ僕ら建築や都市の領域の人間が全く持っていないんです。それが急速に問題として顕在化しつつある、というのが今です。

そうした問題意識が、連載タイトルにもある「スマートシティー」(注1)の文脈につながっている、と。

豊田 次世代型のスマートシティーに関しては、すでに米グーグル(Google)や米マイクロソフト(Microsoft)、あるいは中国アリババ(Alibaba)や米オートデスク(Autodesk)といったプレーヤーが、何千億円という投資をしてプラットフォームを取りに行っている状況です。しかし、今、日本でこれができるプレーヤーがまずいない。

 こう話すと先端のIT企業の牙城のように思うかもしれませんが、でも実はスマートシティーの実装には、ちょっと前時代的なモノづくりのノウハウがすごく重要になってくるんです。そこで僕の講演などでは、いつも西田先生の「コモングラウンド(common ground)」(注2)についての言葉を参照させていただくんです。

人間社会が人工知能のもたらすベネフィットを最大限に享受できるようにするためには,人間社会と人工知能がともに依拠できる共有基盤(common ground)を構築し,発展させていく手法を確立することが不可欠です.
(2018年度人工知能学会全国大会(第32回)のセッション案内文より、一部抜粋)

西田 ありがとうございます。

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