プログラミング言語「Python」のカンファレンスで世界最大級の「PyCon 2019」が2019年5月に米クリーブランドで開催された。注目されたのがPythonの生みの親であるグイド・ヴァン・ロッサム氏(グイド氏)の出欠だ。同氏は2018年7月に最高意思決定をする立場からの引退を表明していた。

 結論から言うとグイド氏はカンファレンス最終日朝のキーノートディスカッションに登壇した。これだけでなく様々な参加者と精力的に意見交換している姿を見かけた。

 グイド氏の「引退表明」以降、Pythonの開発が滞ったり混乱したりするのでないかと心配する声も一部にあった。だが同氏はPyCon 2019で自身の口から「引退表明」の経緯を説明し、立場は変わるが今後もPythonの開発に関わり続けることや、引退の影響が無いことをPythonユーザーに伝えた。コミュニティーの力によって今後も開発やイベントが続いていくという道筋もはっきりした。

 筆者はPythonを使ったWebシステム開発を手掛けるCMSコミュニケーションズを経営している。同時に国内最大級のPythonイベントである「PyCon JP」を開催する一般社団法人PyCon JPの代表理事を務めている。またPython人材の育成を支援する一般社団法人Pythonエンジニア育成推進協会の顧問理事でもある。Pythonの今後を気にしながらPyCon 2019に参加したが、「ひとまず安心した」というのが率直な感想だ。

 最初に、PyConについて簡単に説明しておこう。「Python カンファレンス(Conference)」を略した名称で、講演やポスター発表、チュートリアル、開発イベントなどを通じて、Pythonを利用して開発するプログラマーたちが最新の情報を共有する。それがカンファレンスの趣旨だ。

PyCon 2019のメイン会場に配置されたスポンサーブースの様子
スポンサーの支払ったお金はPSF(Pythonソフトウエア財団)に入り、それがコミュニティーに還元される仕組みになっている
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 PyConは2003年に米ワシントンDCで初めて開催された。今では世界30カ国以上で同名のカンファレンスが開催されている。各地域で開催されるPyConには末尾に地名が入る。日本であればPyCon JPといった具合だ。米国で開催されるPyConには地名が入らない。各国のPyConと区別する意図で「US PyCon」と呼ぶ場合もあるが、これは正式名称ではない。

 そして米国で開催されるPyConは、2つの理由で特別な意味を持つ。1つ目はPythonソフトウエア財団(PSF:Python Software Foundation)が主催していること。PSFはプログラミング言語としてのPythonの開発を支援する中心的な非営利団体である。2つ目は世界最大規模であることだ。2019年5月1日~9日に開催されたPyCon 2019には3200人が参加した。日本で開催されるPyCon JPの3倍に当たる。

 この記事では筆者がPyCon 2019に参加して知ったことや感じたことを紹介する。

最高意思決定者から降りるが開発の中心に残る

 グイド氏はPythonの最初の作者であり、20年以上にわたりPythonの仕様決定の最高意思決定権を持つ「BDFL(Benevolent Dictator For Life:優しい終身の独裁者)」を務めていた。しかし2018年7月にBDFLからの引退を表明した。このことは日本国内でも大きな話題となり、筆者の周りでも情報を求める人が多くいた。

 その後2018年末に「PEP 8000」などのいくつかの文書で新しい運営方法が公式に発表された。具体的には5人のメンバーで構成される「意思決定議会(Steering Council)」を作り、仕様決定の最高意思決定は意思決定議会が担うことになった。意思決定議会の1人としてグイド氏も入ると発表された。

 ただPythonにおけるグイド氏の存在感は大きい。グイド氏が活動をフェードアウトさせると、Pythonの今後に影響が出るのではないかという不安はあった。グイド氏が毎年出席しているPyConに来て、今まで通りにコミュニティーの一員として活動するのか、筆者は疑問に思っていた。