「マル情」と呼ばれるIT関連の部隊が入居する東京・品川の日立大森第二別館。ミスター・マル情といえる塩塚啓一副社長の執務室に、社外秘の巨大な紙が貼り出されている。IoT(インターネット・オブ・シングズ)やデータ分析などの基盤を提供する「Lumada」のユースケース(実例)などを業種や顧客の経営課題といった切り口で整理した一覧表だ。塩塚副社長は毎日のように眺め、Lumada事業の拡大に向けた戦略を練る。

 日立は2016年5月にLumadaの構想を発表し、関連するサービスや技術を順次拡充してきた。Lumada事業の売上高は1兆円を超え、顧客とのユースケースも700件に迫る。故障予兆診断など他社に横展開できるよう標準化したサービス群「ソリューションコア」も2018年末時点で約70種類に増えた。

画像解析で逸脱動作を検知

 Lumada導入の好例が化学メーカーのダイセルとの共創だ。ダイセルと日立は自動車用エアバッグのインフレーター(ガス発生装置)を製造するダイセルの播磨工場(兵庫県たつの市)に2015年8月から順次、生産ラインに関わる動画などを分析する画像解析システムを導入し、2018年末時点でほぼすべてのラインに投入した。

カメラを活用して逸脱動作を検知する流れ
画像解析で作業者の異常な動きを捉える
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 現在は中国やタイ、韓国の工場にも展開し始めており、2021年をめどに海外主要6工場の既存ラインに採用する考え。新たに作るラインについては、同システムを組み込んだ形で展開している。

 既に日立はダイセルと開発した画像解析システムをLumadaのソリューションコアとして外販している。画像解析エンジンだけの採用を含めると、10数社で導入実績があるという。

 「いいタイミングだった」。ダイセルの川口尚孝執行役員は2015年ごろをこう振り返る。当時、播磨工場はほぼ同時に5つの生産ラインを立ち上げなければならず、品質の維持・向上が差し迫った課題として浮上していた。

 そんなタイミングで日立が提案したのが、画像解析技術を使って品質を管理するシステムだった。製品1つひとつについて工程の様子を確認できる。

 ダイセルとの共創を担当する日立の森田和信インダストリー事業統括本部CSO(最高戦略責任者)は「人、設備、材料、手法のデータをセンシングできれば、製造現場の事象を正確に捉えられるようになる」と力を込める。

 画像解析システムの目玉機能の1つが、作業者の逸脱した動作を見分けられるようにしたことだ。作業員の実務レベルを底上げでき、品質問題を未然に防げるようになる。

 まず3次元の形状データを取得できる「距離カメラ」を設置し、作業者の両肩や両肘といった関節の位置データを捉える。このデータと、腕の長さの違いなどを取り除いた「標準動作モデル」を統計的に突き合わせ、逸脱した動作かどうかを見分ける。

 逸脱した動作と判定すれば、監督者のスマートウォッチに通知し、監督者がすぐ改善に向かう。作業者は10秒前後に1個というペースで製品を作っており、監督者が定期的に見回りをするだけでは異常を全て見極めるのが難しい。カメラと画像解析、スマートウォッチを組み合わせることで、作業者の異常をすぐに検知し、素早く改善策を打てるようになった。

 動作判定に当たっては、制御装置の工程情報やタイムスタンプ情報が欠かせない。ここで必要になるのが、OT(制御技術)の中核システムといえる「製造実行管理システム(MES)」だ。MESで管理する工程情報から標準動作モデルを選択し、タイムスタンプ情報を活用して関節の位置情報から該当する作業を切り出すという流れだ。

 重要な工程である溶接については、特殊なカメラを活用して、飛散物の状況などを撮影する。このデータと既存設備から集めた電流や電圧などのデータを組み合わせて分析し、適切に溶接できているかどうかを見分ける。

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