要件や仕様の決定、課題解決策の決定に予定以上の時間を要したり、何らかの原因で生産性が予定より低かったりすると進捗遅れが出ます。これを当初のスケジュールのままにリカバリーしようとすると、必ず無理が出て品質にしわ寄せがいくことになります。

 遅れをユーザーに言い出せずにトラブルの火種を抱えたプロジェクトマネジャーの悪戦苦闘ぶりを見ていきましょう。


「また止まったって!」

 プロジェクトリーダー(PL)の葛城隆一が、妙に明るい声を上げる。

 PMの矢作隆は、昼食に向かいかけた足を止めた。交通機関の話などではないことは分かっている。

 矢作は、尻ポケットから大判のスマートフォンを抜き出した。左の掌に乗せて、秒読みを始める。4秒、3秒、2秒。1秒まで数えたところで、案の定、呼び出し音が鳴った。矢作はスマホを耳に当てた。

「はい、ニッケイ開発矢作です」

「矢作さーん」

 語尾を長く伸ばした、特徴的な声が耳を打った。顧客の経理部の岡田主管だ。

「またですよー、勘弁してくださーい」

 管理会計の巨大パッケージをリプレースする経理部のプロジェクトは、先週からUATに入っている。ここのところ毎日のように、矢作は岡田主管からの電話を受けている。最初はフロアの代表電話にかかっていたが、今は矢作のスマホを直撃するようになっている。

 矢作は、落ち着いた声を出そうと努めた。

「はい。何が起こりました?」

 岡田主管の声は震えている。

「仕訳ですよー。日中バッチで止まっちゃったのよー。葛城さんが、今度は絶対大丈夫だって言ってたのにー」

 ディスプレーにかじりついている葛城に横目で視線を送りながら、矢作は言った。

「申し訳ありません。メッセージやログは、葛城に連携いただいてるんですね?」

「今指示したとこー。それより矢作さーん、今日仕訳が出ないと、後続の検証ができないじゃない。いつまでも財務や生産管理を待たせられません。明日のステコミで、改善策と再発防止策を説明してくださいよ。スケジュール案も含めてねー」

 通話は、唐突に切れた。

 矢作は唇をかんだ。岡田主管はもともと温厚で話好きの性格だ。その主管が、相当頭にきている。UATを始めてから連日の品質不良に悩まされているのだから、それも無理はない。

受け入れテストのトラブル対応に時間を割かれ、ますます品質問題のリスクが高まる
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 改善策と再発防止策、見直しスケジュール案。それも明日まで。葛城から状況を確認し、不具合傾向分析を急がせなければならない。報告書は自分が考えなければならないだろう。上司への報告も必要だ。

 期限を調整しよう。せめて金曜日まで。スマホを手に取ろうとして、矢作はためらった。今、岡田主管にそんなことは言えない。今夜も徹夜になりそうだ。


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