「期間もコストも据え置きで、必要な機能を全て実現せよ」。ユーザーからこんな理不尽な要求をされたら、プロジェクトはにっちもさっちもいかなくなります。そんな炎上事例を見ていきましょう。

 

「ここまで検討してきた要件ですので、基本的には全て実現していただきたいんです」

 プロジェクトマネジャー(PM)の来生貴子は、倉本課長の言葉に耳を疑った。営業担当の杉下が、自信なさそうな声で確認する。

「基本的には、とおっしゃいますと、要求の一部取り下げや先送りなどもあるということでしょうか?」

 倉本課長は、笑みを浮かべながらも断言した。

「いいえ。全て、7月リリースで実現していただかないと困ります。挙がっているのは必須要件ばかりです」

 杉下が黙っているので、来生が代わりに指摘した。

「しかし、概算見積もり時に想定していたスコープからすると、2倍強に膨らんでいます。同じスケジュールでの実施は困難ですし、追加コストもかかりますが」

 倉本課長は、眉間にしわを寄せて首を横に振った。

「既に3カ年計画を経営会議に報告しているのです。リリース時期は延ばせません。事業年度末である9月までの予算額も既に確定しています。追加コスト支出の余地はないとお考えください」

 そんなむちゃな。来生は唇をかんだ。期間もコストも据え置きでなんて、無理難題もいいところだ。

発注者からの一方的な言い分でスコープが拡大
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 杉下が、勇気を振り絞るようにして、言った。

「当社としましては…、要件定義フェーズをご提案した際に、要件定義後に再見積もりさせていただく旨を付記させていただいていますので…」

 倉本課長の眉がつり上った。

「杉下さん、概算見積もりを頂くときに、事業年度と予算のことは説明したじゃありませんか。何も特殊な機能を求めているわけじゃありませんよ。御社の概算見積もりが甘かったということじゃありませんか?」

 杉下と来生に、言うべき言葉は見つからなかった。

 さすがの倉本課長も、冷ややかな沈黙を感じ取ったようだ。なだめるような声になって、言った。

「大変だとは思いますが、何とかやり方を工夫して頑張ってください。業務要件を満たさないシステムを作ったって、意味がないんですから」


トラブルの要因

 発注側と受注側の立場の違いと、不確定な状態で見積もり提示や予算措置が行われるという我が国の商慣習から、IT業界では起こりがちなケースです。

 システムは目に見えず、値ごろ感もないため、理不尽な主張が起こりやすいのです。機能が業務に密着しているため、「ないと仕事が回らない」「これくらいはあってしかるべきだ」といった話になりやすく、一方で相当のコストがかかるため、「予算が確保できていない、足りない」という制約が起こりやすくなります。

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