登場人物紹介

Biki(≒瀬川秀樹)
数年前までリコーに長年勤め、新規事業開発センター副所長や未来技術総合研究センター所長を歴任。現在はベンチャーから大企業まで幅広く新規事業のメンターや若手育成研修などを行っている。

(イラスト:勢川びき)
井野辺くん(井野辺祥雲)
大企業に勤める元エンジニア。入社10年目。現在は新規事業の立ち上げを行っている。

[♪オープニングの音楽♪]

Biki 深々とした夜の闇に心を休める時、いかがお過ごしでしょうか。大企業の中で新しいことにチャレンジしたいのにいろいろな壁にとらわれてモヤモヤしている若いアナタの背中を押す「ラジオ風コラム」の時間です。お相手は私Bikiおじさんと井野辺くんです。

井野辺 こんばんは。今日も始まりましたね。前回と同じようにこの目の前のカードを取っていいですか?

Biki せっかちだなあ。どうぞ。

井野辺 じゃ、これにしようかな。えーと。今回は文字だけですね。読みますね。

(カードに書かれている相談)入社6年目で化学系の技術者です。最近はある素材の形状観察と次世代製品に向けた被膜形成方法の研究開発をやっています。ある意味、自由に自分でいろいろと工夫しながら仕事をできるし、チームメンバーも良い人たちばかりなので、仕事そのものに不満があるわけではないのですが…。会社に入った頃のことを思い出すと、「自分が手掛けた技術で人を幸せにしたい」という青臭いけれど夢みたいなものがあったのですが、気が付くと淡々と毎日が過ぎていて「これは誰のためになるのだろう」と、ふと考えてしまいます。

Biki これはある企業で実施した若手育成プログラムで、最初に上司のいないところで若手だけで3人ずつ集まって話を聞いた時に事前に書いてもらった「モヤモヤしていること」のメモなんだ。

井野辺 ちょっとぜいたくな感じのモヤモヤですね。

Biki そうだね。でも結構大事なモヤモヤだと思うよ。知らないうちに「技術者だからの壁」に囲まれてしまっているのだろうな。

井野辺 「技術者だからの壁」? Bikiさんも、もともとは技術者でしたよね。

Biki そうだったなあ(遠くを見る)。このカードの方は、「技術者だからこそできるはずなのに」という壁にモヤモヤしているんだ。大学時代に頑張っていた研究領域での技術を技術者だからこそ生かして「世のため人のため」と会社に入ってきたのに、「何のためにやっているのか」とモヤモヤしている。

井野辺 そうですね。大企業だとどうしても役割分担がされていて、一技術者は事業や事業創造のためのほんの一部だけを担当するから、どうしても「何のため」「誰のため」が見えにくくなってしまうのでしょうね。ボクも新規事業開発部門に移るまではそうだったなあ(遠くを見る)。

Biki 自分の技術で世の中に貢献したいのにね。ポイントは「大企業だから」と思っちゃって忘れていることがあるのです。

井野辺 へー。

「まだ見ぬあの人」に届ける

Biki 大企業だと、どうしても事業規模が大きい。これから作ろうとする新規事業も規模が問われる。だから、事業や製品を届けるべきユーザーの数は多いけれど、ボヤける。例えば「全ての高齢者の方に」とか言っちゃう。

井野辺 確かにすごい人口ですね。

Biki その会社の事業方針に従っているだけだと、自分が担当している技術が誰にどのように役立つのかの実感が全く湧かない。そうではなくて…。

井野辺 そうではなくて! どうすれば?

Biki 「まだ見ぬあの人」にアナタの技術で作った製品や事業を届けるために頑張るのです。

井野辺 いいフレーズですね。「まだ見ぬあの人」のために。

Biki なんか良いこと言っている気がしてきた。「たくさんのぼんやりとした客」のためにやるのではなくて、できれば具体的に、できなければ架空でもいいので「この人に」を想定する。

井野辺 バーチャルでもいいのですか?

Biki いい。そして、その人になりきって「アナタがやってくれた技術のおかげ」と思えるような性能や機能の開発を目指す。

井野辺 でも、大会社の技術開発って、目標仕様とかがチームとして決まっているので、自分勝手に性能や機能の目標を設定できないでしょう?