「ほかに言いようがないんだから、部下はそのくらいのことを言われてもガマンすべきだ」と思わないでほしい。部下のやる気を引き出せる上司なら例えばこう言うだろう。

 「忙しいところすまないが、この仕事を頼まれてくれ。君が最も適任なんだ」──。

 部下のやる気を引き出すには、根底に部下を尊重し思いやる気持ちがあることが大前提だ。だが言い方一つでも、部下のやる気が左右される。

 「あいつはもともとやる気がない」と嘆く前に、上司として部下のやる気を引き出すためにどうしたらよいかを改めて考えてみてほしい。あなた自身、上司の一言でやる気が出たりそがれたりした経験がきっとあるだろう。上司は部下のやる気に対して影響力と責任を持っている。

 では、どうすればいいのか。最も基本となるのは、コミュニケーションスキルである。コミュニケーションこそが、部下のやる気を引き出すうえで最も重要なツールになる。以降で、部下のやる気を引き出すコミュニケーションの鉄則を5カ条にまとめた。上司、リーダー、先輩のITエンジニアとして知っておくべきことを厳選したので、ぜひ読んで実践してほしい。

部下のやる気を高めるコミュニケーションの鉄則5カ条
部下のやる気を高めるための鉄則を示した。簡単なように思えるかもしれないが実際には意識しないと不十分になりがちだ
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鉄則一 日ごろの会話の積み重ねで基盤となる信頼関係を築く

 部下のやる気を引き出すうえで基盤となるのが、互いの信頼関係だ。これを築くには、どうすればよいか。

 まず必要なのは、頻繁に声をかけることだ。毎朝挨拶する、相手の名前を呼びかける、メールだけでなく直接会話もする、といったことを心がける。

 こう言うと底の浅いテクニック論のように思えるかもしれないが、会話はコミュニケーションの基本である。会話の積み重ねは、着実に信頼関係につながっていく。

 しかも日ごろから言葉を交わすことは、部下の人となりや、やる気の状態を把握することにも役立つ。例えばいつも元気に挨拶する部下が、急にうつむきがちで歩くようになったり、挨拶しても返事をしなくなったりしたら要注意である。メールの返信が遅れたり、「どうせ…」や「○○のせいで…」といった否定的、悲観的、批判的なことばかり口にしたりするのも危険信号だ。やる気の低下は、そうしたところに表れる。

 上司としては、部下の変化に気づいた場合、できるだけ早めに、その部下と個人的に話す時間を設ける。そうして、部下の話にじっくり耳を傾けて、何が起こっているのかを把握する。部下にとってみれば、話を聞いてもらえるだけで意外に気持ちがすっきりすることが多い。

 その際、間違っても、最初から説教してやろうなどと考えてはならない。部下は心を閉ざすばかりで、何も解決しないだろう。

 言葉を交わすだけでは、信頼関係を築くうえで十分とは言えない。上司が部下にとって尊敬できる対象でなければならないのは、言うまでもないだろう。

 加えて、もう1つ強調したいことがある。それは、上司が部下を信頼することだ。心理学で、「好意の返報性」という考えがある。自分のことを好意的に評価してくれる人、自分を好きだと思ってくれる人に対しては、自分も好意的に評価したり、相手を好きだと思ったりしやすい、ということである。信頼関係にも同じことが言える。上司が信頼を寄せるから、部下も上司を信頼するのだ。