排せつを知らせる「介護テック」、人の尊厳をデジタルで守る

2019/05/29 05:00
矢口 竜太郎=日経 xTECH/日経SYSTEMS

 介護職員は2035年に79万人不足する――。経済産業省が2018年4月に公表した推定値だ。あらゆる業種で人材不足が叫ばれる中、介護現場は深刻な部類に入る。

 問題は介護事業者だけに起こっているのではない。2017年に介護を理由に職を辞した人は9万9000人に及ぶ。いわゆる介護離職だ。今は関係がないと思っているビジネスパーソンでも、突然、身内に介護が必要になる可能性はある。

 介護の負担をどう減らすか。日本全体が直面しているこの社会的課題を解決する有力な手段がテクノロジーの活用である。ここ数年、介護現場の負担を軽減し、サービス品質を向上させるためのテクノロジー活用「介護テック」が急速に進歩している。

 SOMPOホールディングスは介護テックを推進する1社。2019年2月5日に介護分野でのテクノロジー検証施設「Future Care Lab in Japan」を開設した。

 Future Care Lab in Japanの片岡眞一郎所長は「介護分野でテクノロジーを活用するなら、食事、入浴、排せつの3領域。これらが介護職員の労働時間の65%を占める」と言う。Future Care Lab in Japanでは、この3領域の業務負荷を低減するロボットやITシステムの開発に取り組んでいる。

臭いセンサーで排せつを検知

 食事、入浴、排せつの3大介護業務のうち、排せつ補助の負荷を軽減する製品を開発しているのが、ベンチャー企業のaba(アバ)だ。「肉体的にも身体的にも、最も負担が大きいのが排せつの補助。まず、この分野の作業負荷を減らしたい」。abaの宇井吉美代表取締役は言う。

abaの宇井吉美代表取締役
(出所:aba)

 abaが開発したのは、被介護者が排せつしたことを検知するセンサー「Helppad(ヘルプパッド)」。シート状の製品で、ベッドのシーツの下に敷いて使用する。臭いで排せつを検知し、おむつ交換のタイミングを介護者に知らせる。医療用ベッド大手のパラマウントベッドと共同で開発し、2019年1月から販売を開始した。

ベッドに置いた青いシート状のデバイスが排せつセンサーの「ヘルプパッド」
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 一般的に介護施設では、2時間ごとなど一定時間おきに介護職員が巡回しておむつを替える。本人の意志とは関係なく、ズボンを下ろしておむつの状況を確認し、便が出ていなければそのまま再度おむつを閉めてズボンを戻す。

 この状況は介護者にとっても被介護者にとっても課題がある。何人ものおむつの中を確認する作業は、介護者にとっては重労働。便が出ていなければその労力が無駄になる。被介護者にとっては便が出ていないのにおむつを確認されたり、便が出ているのに1時間以上もおむつを替えてもらえなかったりする状況が起こり得る。

 排せつの介護においては、介護者の作業の負担だけでなく、被介護者の尊厳に配慮する難しさという大きな課題があるのだ。ヘルプパッドはこうした状況の改善に役立つ。

 ヘルプパッドの仕組みはこうだ。シートの中には数本のチューブが通っている。チューブには数カ所に吸気口が開いており、そこからベッド上の空気を1分間隔で吸い込む。吸い込んだ空気はシートと一体化しているセンサー部に送られる。センサーが臭いを検知すると、無線でデータが送信され、PCやiPadといったデバイスを介してそのことが分かる。デバイス側のアプリは排せつを検知するだけでなく、排せつの記録も可能だ。

空気を吸い込むチューブを通じて臭いを検知する
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ヘルプパッドの管理画面
(出所:aba)
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 ヘルプパッドの技術的なポイントは、臭いを検知するアルゴリズムだ。もし、「一定のしきい値以上の臭いを検知したらアラートを出す」という単純な設定だけだと、排せつ前からしきい値を超えてしまう人が出てくる。このため、臭いの強さが急激に変化したときに排せつしたと判断するようにした。

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